- 透析JOURNAL
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- 再生!勝てる組織づくり
- 指揮官に求められる使命感とは(2)
5.指揮官に求められる使命感とは(2)
自負とプライドを形にするためのマネジメント
- 櫻堂
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使命感を持って、これだけは日本一だというものを持ってチームが進むときに、理想、目標、思想、哲学というのは意識や観念のレベルだと思いますが、清宮流のラグビー哲学を選手にはどう具体的に示しますか。
- 清宮
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どう落とし込むかという意味では選手の個性によって違います。踏みつけて、踏みつけて、泣くまでやらせる選手もいますし、繊細な選手にはそんな手荒なことは絶対にしません。どんな方法にせよ、「俺たちはこれだけは誰にも負けない」という自負とプライドを植え付けることが大事で、私がスローガンを大事にするのはそのためです。
サントリーサンゴリアスのいまのスローガンは「アライブ」です。直訳通り「生き続ける」こと。とにかくグラウンドの上で相手より多く仕事をすること、プレーをすること、そして誰よりも長く走り続けること。それをサントリーのプライドにしようとしています。休んでいる時間が相手より短ければ絶対に勝てるという単純な発想です。そのため選手には、「手の届く範囲の仕事は全部やれ」といったスローガンをつくって、プライドを育てて、それで負けたらすべてが否定されるというような雰囲気をつくるのです。
ただ、気持ちだけではできないので、それをキープする体力づくり、土台づくりが必要になってきます。そうしないと10分でスタミナが切れます。それを支えるトレーニングの量と質が大事で、支えるメディカルサポーター、トレーナーや栄養士など、スタッフが一つになってチームのプライドを形にできるようマネジメントするのです。
- 櫻堂
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プライドと、闘争心に火をつけるもの、あとは最初の使命感ですね。ベースづくりも相当科学的にやっておられて、ムダなことはあまりやらないようですね。
- 清宮
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ムダなことは一切やりません。目標を科学的に達成するためのチームがあるから、サントリーのストレングスは日本で一番なんです。今のコーチが来て5シーズン目ですが、数字では他のチームを圧倒しています。勝つための筋力を備えたからこそ相手に負けずにアライブし続けられるのです。
- 櫻堂
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ビジネスマン、経営者、医療従事者も、スローガンを立てたり、哲学まではできますが、具体的な筋力をつけたり、作業を効率的に組み立てたりといった面の弱きがあるように思うので、いまのお話はとても参考になります。
戦う組織はプロセスを共有する
- 櫻堂
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病院経営者はいつも悩んでいます。どうしてうちの病院は、職員は、こうなんだと。たぶん自分自身も悩みながらも、理念めいたものを持ってはいますが、「理念は作ったが現実は変わらない」とよく言います。それはまさにベースとなる「筋力」が不足しているからではないかと思うのです。
まずコアの部分を作って、自信をつけてと、お話を聞いているとできそうな気がしますが、やはりコアの部分を見つけるのは大変でしょうね。
- 清宮
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そうです。それを習得させる技術とノウハウ。このサントリーも1年で大きく変わりましたが、スローガンを作って、プライドを持たせた後は新しい武器を作ることです。就任最初の年はそこに特化しました。今まで持っていたベースはいじらずに。家に例えると、いわばリフォームです。それだけで大きく変わることができます。
- 櫻堂
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新しい武器を作るとき、たくさん試すのか、それともこれだと思うものに絞りますか。
- 清宮
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たくさん試して、本番に使うものを絞り込んでいきます。相手によって、あのチームにはこれを使うけれど、このチームにはこれを使うというように。深くトレーニングするのはその週の対戦相手に対してです。使うアイテムについてはそれほど深くなく、動き方と決め事だけわかっているという程度です。なぜなら、30、40ある持ち手をそれぞれ順番に時間をかけて練習しているとわけがわからなくなるからです。「今日はこれとこれを使って」という感じです。すると対戦相手にとってサントリーというチームは毎週形が変わるからシミュレーションができない。前週とはまるで違うチームになれるのです。
- 櫻堂
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その武器を選ぶのは監督ご自身で、持ち前の決断力によるわけですね。
- 清宮
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一人で決めたほうがチームの色が生まれます。いろいろな人間が決めると少しずつバラバラになっていきますから、アイデアは取り入れますが、やはり総監督が選ぶべきです。
- 櫻堂
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会社には合議制という仕組みがありますが、合議というのは実は誰も責任を取らないということで、それではダメです。一人の責任ある人間が選択をすべきという意味ではマネジメントと通じるところが多いですね。
- 清宮
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もちろん、ピラミッド型組織だとしても、プロセスにおけるディスカッションは絶対に必要です。
去年、サンゴリアスのキーワードに「メンタル・タフネス」を採用しました。プレッシャーのかかった試合では、仕事ができる人間とできない人間とにはっきり分かれすぎていたので、選手全員をファイナルゲームで存分に力を発揮できる精神力を備えたプレーヤーに仕上げてやろうと考えているところです。
- 櫻堂
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科学的なメンタルトレーニングに打ち込んでおられる清宮監督の姿が目に浮かびます。今日はすばらしいお話を長時間、ありがとうございました。
清宮克幸氏 プロフィール
略歴 1967年、大阪生まれ。府立茨田(まった)高校入学と同時にラグビーを始め、1年生でレギュラー、2年生でナンバー8に。3年生で全国大会に出場、高校日本代表に選ばれ、主将を務める。86年、早稲田大学に進学、やはり1年からレギュラーとなる。2年の時、社会人の東芝府中を倒して日本一に輝き、90年1月、主将として学生日本一となる。卒業後はサントリー入社、フランカーとして活躍し2001年に現役引退。同時に早稲田大学ラグビー蹴球部監督に就任。同年12月、関東大学対抗戦で11年ぶりに優勝、03年1月、大学選手権で13年ぶりの優勝に導く。05年、06年と大学選手権を連覇し、同年勇退、プロのトップリーグ・サントリーサンゴリアス監督に就任、現職。「奥・井ノ上イラク子ども基金」代表、総合スポーツクラブ・ワセダクラブ理事。著書に『「荒ぶる」復活』(講談社)、『最強の早稲田ラグビー世界を狙う「荒ぶる」魂』(同)、『究極の勝利 ULTIMATE CRUSH』(同)など。