医療経営戦略研究所
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清宮克幸(サントリーサンゴリアス監督) VS 桜堂渉(医療経営戦略研究所)

2.自信が生み出した想像以上の力

櫻堂

それは面白い効果ですね。

清宮

怪我の功名といいますか、個々の選手の力が足し算でなく掛け算の効果を現しはじめたのです。筋力トレーニングに本格的に取りかかったのは、チームにこうした芽が出てからです。宿敵の関東学院に練習試合で完全に当たり負けしたときの衝撃を、選手たちの頭の中で具体的に描かせながら取り組みました。

櫻堂

しかし、監督が就任したその年に、ある程度の結果が出始めたようですね。

清宮

一年目は理想と現実の間を行ったり来たりしました。理想は理想として、現実にどこまでできるかを見極め、見極めた到達点に向かってまっしぐらというイメージです。理想と現実のギャップはどんな組織も同じでしょう。自分たちができるギリギリのラインに向けた目標設定と、目標を確実に達成するために必要な強みをつくろうとしたのです。その過程で、ベンチマークに設定したライバルチームを上まわる戦略を練ります。

監督就任最初のシーズンは、02年1月2日に行われた大学選手権準決勝の早慶戦で36対7で圧勝し、12日には関東学院との決勝戦でした。選手との約束どおり前回と同じアンケートを事前に実施してみると、春から続けてきた練習の成果が早稲田の強みとして挙げられていました。私はこれならいけると確信しました。結果はあと一歩というところで負けましたが、16対21、わずか5点差まで詰め寄ることができたのです。

自信をもったチームにはリーダーが想像もしないような大きなエネルギーが生まれるものです。ラグビーにはそれがあるから面白い。選手の力を足し算するだけなら答えは見えているから誰も感動しません。もちろん、かけ算ばかりじゃなく、引き算もあれば割り算もあります。予想を超えた力とは選手たちが自信やプライドのような、形ではない何かを身につけたときに生まれる力です。

櫻堂

最初に、どんなチームになりたいかというリーダーと選手に共通の思いがあって、そこからスタートする。

清宮

そうです。共通の目標がなければだめです。基本がしっかりした木の幹のようにできてくると、それまでなかなか身につかなかった技がスッと入っていくイメージですね。よく、幹があるから枝があるといわれますが、その幹を育てるのが監督になって最初の仕事でした。

強みを伸ばし正しい道を歩む

櫻堂

スポーツチームや営利企業は、目標がはっきりしているから共通の目標を見つけやすいかもしれません。しかし医療機関のような非営利の組織は、どうなりたいかが見つけにくい業界であることは事実です。国の規制の中で活動するさまざまな組織がありますが、そうした規制下にある業界は、なりたい姿を自分で見つけなくても保護されています。いまは医療サバイバルの時代といわれますが、その中で生き残っていくには、監督が言うように、どんな組織になりたいのかを自分たちで見つけてそれに向かっていくことが重要なキーになるということですね。

清宮

私が知っているあるドクターは、いまの病院は病気になった人が行く所じゃないと断言しました。病気になったら良い景色と環境に恵まれた病院に入ってはじめて健常になれる。ところがいまの病院は健常な人が入っても病気になってしまう、そんな環境だと嘆いていました。結局、そのドクターは海の見える丘の上に槍造りの病院を建ててしまった。そこには日本中から入院を希望する患者が殺到するそうです。自分が正しいと思う病院をつくる、そういう思いがとても大切だと思います。

私もいろいろな局面で決断が求められますが、自分が正しいと思う道を進んでいるだけです。正しい道を選んでいるだけと私はよく口にしますが、正しいからといってすべてが実現するわけではもちろんありません。でも自分の中に一本の軸があるので、人から何を言われようと困難にぶつかろうと、ストレスやプレッシャーに感じたことは一度もありません。

櫻堂

監督は非常にまれな才能をお持ちなのかも知れませんね。

清宮

そうではないと思います。日本の医療のあるべき姿はまさに正しい道で、それを阻害する要因は何かと考えれば、やるべきことがおのずと見えてくるのではないでしょうか。私たちが練習するのは二つ、分析してわかった相手の強みを消すプレーと、逆に自分たちの強みを生かすプレーです。それと同じで、環境が悪ければそれを打ち消し、強みがあればそれを伸ばせばいいのだと思います。ラグビーには試合があるからそれが分かりやすいだけです。試合の相手によってプレーに求められる形があり、そのつど課題と対策が出てきます。仮定して、対策を練って、実際に試してみる。ダメだったらもう一度検証して、また新しいアイデアを何通りも出して、その中からこれだというのを練習して、またそれを試す。この繰り返しでチームの幹がどんどん太くなっていきます。

櫻堂

まさに経営でいう“Plan、Do、Check、Action″のサイクルですね。

清宮

ラグビーはこの繰り返しを1週間単位で回します。

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