- 透析JOURNAL
- interview
- 再生!勝てる組織づくり
- まずチームにプライドを持たせることから
1.まずチームにプライドを持たせることから
体が小さい、足が遅い、スクラムが弱い
- 櫻堂
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お忙しい中、貴重なお時間をいただき、ありがとうございます。
ご存知のように、透析医療に限らず医療業界はいま、非常に大きな危機に直面しています。これまで医療機関は経営努力をしなくてもなんとかやってこれましたが、いまはコストや効率を念頭に置いた医療が求められるようになり、診療報酬も実質2年に1回引き下げられ、国の税収減が見込まれる将来はそれが加速されることは容易に想像がつきます。
とくに透析医療機関がこの危機をどう乗り切るべきか、「優勝請負人」ともいわれる清宮監督の組織論、リーダー像から示唆をいただければと考えました。
清宮監督の著書を何冊か読ませていただき、実践に裏打ちされた哲学にはとても感銘を受けました。経営書には理論的な話はいろいろ書かれていますが、もう理論の段階ではないと感じていたからです。 監督にはむしろ実践家としてのご経験からつかみ取られたものをお聞きしたいと思っています。
十数年間優勝から遠ざかっていた早稲田ラグビー部を相手に、2001年に監督に就任されて最初にしたことは何でしょうか。
早稲田大学ラグビー蹴球部
1918(大正7)年創部。27(昭和2)年、豪州遠征をきっかけに、伝統の「ゆさぶり戦法」を編み出し、戦前の黄金時代を築く。戦後も常勝を誇り、早明伯仲で国立競技場を満員にしたが、昭和30年代に入ると一転して低迷、Bグループへの転落とAグループへの復活を経験した後、40年代には再び早稲田ラグビーの輝かしい伝統が蘇った。平成元年に清宮克幸氏が主将を務めたチームが大学選手権で優勝したのを最後に、再び優勝から遠ざかった。平成13年に清宮氏が監督に就任した年にようやく優勝旗を奪還、対抗戦で連続優勝を飾るなど、伝統に裏打ちされながらも「勝つ」ことを目的とした新たなチーム作りと戦法開発が行われている。
- 清宮
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まず、チームの目標を明確にすることでした。早稲田ラグビーの歴史や精神、伝統といったものも大事ですが、何よりも選手たちに「日本一のチームになりたい」という意志を持たせることでした。それさえしっかりしていれば、日本一になるためにしなければならないことを見つけるのはそう難しいことではありません。
- 櫻堂
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早稲田のラグビー部には一般入試で入ってくる学生が多いようですね。監督が書かれた『究極の勝利』(講談社)で早稲田ラグビー復活の道のりを読んで驚いたのですが、当時の選手は体格も小さく、優れた選手が揃っていたわけではなかったのですね。
- 清宮
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そうです。監督就任直後の3月に行ったファースト・ミーティングで、選手たちの現状を把握するためにアンケートを取りました。「早稲田ラグビーの強みと弱みを書きなさい」「ライバル・関東学院大学の強み、弱みを分析しなさい」というものです。これはサントリーにいたときに身につけたノウハウで、あらためて言葉で表現させると選手の意識下にある本音が見えてくるのです。
予想どおりの結果でした。早稲田の強みとして彼らが挙げたのは「伝統」「人気」「仲間意識」「組織」などで、ラグビーに勝つために必要な要素は一つもありませんでした。逆に弱みは「体が小さい」「足が遅い」「スクラムが弱い」「ハンドリングが悪い」「戦術が古い」など、勝てない要素が山のように挙げられたのです。私は選手に、このアンケートは冬に行われる大学選手権の前にもう一回行うと告げました。そのときまでにこのチームがどう変わったかを教えるためです。
そして、選手の力量を測るために体力測定をしました。3千メートル走、5 0メートル走、ベンチプレス、スクワットの回数を測りましたが、レベルは惨憺たるものでした。
走りに走ってつかんだ自信
- 櫻堂
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それにしても、体力的な条件に恵まれていない選手たちを最強の集団に育て上げることができたのは不思議です。最先端の筋力トレーニングマシンを導入するなど科学的なトレーニングにも力を入れたようですね。
- 清宮
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筋力トレーニングは絶対に必要ですが、監督就任1年目は、時間がかかるから手を出しませんでした。後に「ビクトリー・チェーン」としてまとめたのですが、「早稲田の強み」として私は、(1)個のパワー、(2)スピード、(3)正確さ、(4)ボールを持ち続ける力、(5)独自性、(6)こだわり、(7)激しさ、に絞り込み、コアとなる自信を身につけさせるために最初の1年間はこれら幹となる基本プレーの練習に打ち込みました。とりわけ持久力と、ボールを持ち続ける技術の二つに放り込んだといっても過言ではありません。
走れば走るほど持久力はつきますが、筋肉は落ちます。それでも「早稲田は持久力だけは負けない」という強みを獲得するためにはやむを得ない選択でした。
- 櫻堂
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理想とするラグビーはあるけれども、一度に全部はできない。経営でもよく「選択と集中」といいますが、まさにそれですね。焦点を絞って強みを獲得し、その強み生かす過程で自信が育っていく。
- 清宮
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多くを求めるとどれも中途半端になり自信につながりませんが、これだけは負けないというものをつくると、自然にチームにプライドが生まれ、その自信が最大の武器になるのです。キックもパスも下手くそで、足も遅いし筋力もない。それでも勝つには、愚直に長い時間走り続け、そしてボールをずっと持ち続ける以外にありません。それを強みとして認識できるようになると、今度は選手の自信になっていきます。たとえスクラムが弱くても、ボールを持ち続けてグラウンドをずっと動かしていると、屈強なフォワードが自慢の相手チームから、いざスクラムというときになるとそれほどのダメージを受けなくなっていたのです。
- 櫻堂
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その効果を狙って走り込みをされたのですか?
- 清宮
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いや、スクラムを押されるのは覚悟のうえでした。ところが数カ月たつと、スクラムでも不思議なくらい押されなくなったのです。ボールをずっと動かしていたから、相手が予想以上にバテていたというわけです。