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3.勝つことを目的とした戦う組織とは
個性を引き出すコンバート
- 櫻堂
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医療組織のリーダー像について、私はよくカリスマ性は必要ないとお話ししています。組織についてもボトムアップ型のフラットな組織であるべきだと説いてきました。しかし、清宮監督は持ち前のカリスマ性を買われて早稲田ラグビーの監督に推されたわけですよね。
- 清宮
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いまの日本型社会のリーダーはフォロワー型がいいといわれていますが、私はピラミッド型の頂点に立つタイプです。リーダーが誰でもいいのならそんなのはリーダーじゃないし、自分にしかできないことを考え、実行し、組織を動かしていくんだと自分に言い聞かせています。誰でもできるのなら私がやらなくてもいいからです。
- 櫻堂
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やはり戦う組織はピラミッド型でなければならないということなのでしょうね。
アメリカのジェームズ・C・コリンズという経済学者は、経営組織をつくるときはまず誰をバスに乗せるかを吟味すべきで、目標はその後だと書いています。日本型企業の経営者はみんなでヨーイドンして、ものすごく時間をかけて人を育てるし、基本的に排除しない。しかしコリンズは、競争に勝ちたかったら誰をバスに乗せるかを選択するのが経営者の役割だと。つまり、座席のないところに人を詰め込んではいけないと説いているのです。
監督も著書に書かれていますが、人の選択はすごくシビアにやっておられると同時に、再チャレンジの道も開いておられるし、選手の個性を引き出すためにはポジション・チェンジ、いわゆるコンバートが必要だという話も読ませていただきました。人材の可能性を引き出すためにものすごく工夫を凝らしておられますね。
- 清宮
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いま私が監督を務めているサントリーサンゴリアスの組織は45人が上限です。ロッカーも45人分しか用意していません。予算もありますからチームのルールとして決めたことです。以前は40人だったのですが、私が監督になるときに挙げた条件の一つとして5人増を飲んでもらいました。
それでも毎年新人が入ってきますので、その分、在籍選手をカットしなければならず、厳しい選択を迫られます。ただ長く在籍している選手からカットするわけではありません。今年、早稲田の教え子で、まだ4年目の若い選手に「他の道で活躍してくれ」と宣告しました。試合に出ていない30番から45番の選手は常に、今年で最後かも知れないという危機感を持っていますし、レギュラー選手もいつBチームに陥落するか油断はできません。その意味で、よい緊張感を持ってグラウンドに出ることができます。
サントリーサンゴリアス(SUNTORY SUNGORIATH)
トップリーグに加盟するチーム。本拠地は東京・府中市。1980年創部。関東社会人ラグビーフットボール連盟3部に加盟、リーグ戦全勝で2部昇格、翌81年、2部リーグ全勝で1部に昇格。89年東日本社会人リーグ優勝。92年に清宮氏が入部と同時に主将に志願、3年目の95年に第48回全国社会人大会で三洋を破って初優勝、第33回日本選手権でも明大を退けて優勝を果たした。清宮氏が監督に就任した06年からはマイクロソフトカップがトップリーグ上位4チームのプレーオフトーナメントに組み込まれた。その年に、いきなりトップリーグ2位に急浮上、08年には王者に輝いた。
チーム名の「サン」は「サントリー」と「太陽(サン)」を、「ゴリアス」は「巨人ゴリアテ」を意味する。
リーダーの厳しい決断がよい緊張感を生む
- 櫻堂
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組織には常に新陳代謝が求められますが、リーダーには最も厳しい決断ですね。
- 清宮
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実は早稲田のラグビー部でも同じことをやりました。賛否両論ありまして、「賛」が2、「否」が8くらいでした。私が監督になってから新入部員がまた増えはじめ、そのままでは部員が160人、180人になってしまいそうな勢いでしたので、思い切って1学年30人、120人の定員制を採用しました。質の高い練習を維持し、強い組織を守るため、そして将来のリーダーが困らないためにも、強い間にルールをつくる必要があったのです。
この30人ルールを作るに当たって、1学年だけ突出して多い45人の学年がありましたので、15人を切ることになりました。彼らが2年生になったときだったので、1年間一緒に戦った、既に仲間です。試合には出られない選手たちですが、退部を宣告するのは辛い。しかし、それを今やっておかないと将来絶対に禍根を残すことになる、そう自分に言い開かせて断行しました。
- 櫻堂
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勝つチームを作ることが目的なので、辛くてもやらなければいけない。その時どんな言葉をかけたのですか?
- 清宮
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辞めさせられた選手たちにはきつい言葉だったと思いますが、「早稲田のラグビー部を離れた瞬間にお前たちの新しい人生が始まる」や、「新しい出会いもあるし、新しい道も開ける」、さらに「早稲田のラグビーが嫌いになっても構わない」と宣言しました。多くの人に反対され、選手たちもなかなか理解してくれないし、選手の親からも、OBからも、「子どもたちの夢を奪うな」とまで言われました。
- 櫻堂
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それはトップとしては非常に辛い。
- 清宮
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ただ、おかげでチームに緊張感が生まれました。やりたくてもやれない選手の分も俺たちは頑張るという緊張感はすごかった。
チーム内の競争は絶対あったほうがいい
選手の可能性を引き出すためのコンバートの話が出ましたが、それも選手に新しいチャレンジをさせるためですか。
一つのポジションを複数の人間が競うことになるので、1人抜きん出た選手がいると、他の選手はモチベーションが下がります。だからポジションを奪われた選手のうち、可能性があるほうを別のポジションで競わせます。すると新しいチャレンジができるのと、いままでの選手にとってはポジションを獲られるかもしれないという緊張感が生まれます。残った選手にも、「レギュラーが怪我したら次はお前だ」と言うと「俺は残れたんだ」と思い直し、やる気になります。コンバートするときは「新しいチャレンジをして失うものは何もない」とよく言って聞かせます。実際、新しい技術を得るだけで、ダメだったらもう一度奪い返せばいいんです。
サラリーマンにも配置転換はあるし、リストラもあります。首を切られることには、生活への不安感もありますが、それを新しいチャレンジへの門出と捉えれば、先ほどの話と通じるところがあります。緊張感と、新しいチャレンジに向けてのモチベーションアップ。そうしたコンバートは、勝つことを目的としたラグビーの組織では人事異動のようなものなのかもしれませんね。
私はコンバートをそれほど深く考えてやっているわけではありません。ただ、チーム内での競争は絶対にあったほうがいいし、1つのポジションを高いレベルで争うとき、2人の一方が出られなくなるわけですから、彼が生きる場所を見つける必要があります。