5.「対談を終えて」――変化に立ち向かう確かなミッションとビジネスマインドがトップと職員をつなぎ成長を生む
イノベーションに欠かせないトップの強い意思と知性
「医療と旅館業とは違う」が、同じ「ヒューマンサービス」を提供する医療にとって小田会長の経験と成果は、業種や業界を超えて学ぶところが多かった。また、加賀屋のきらびやかさと「おもてなしの心」の舞台裏では、早くから「グローバル化」を見据えた、広い視野からの確かな経営戦略が立てられ、じつに緻密な計算が働き、日々努力と工夫が粘り強く続けられていることを強く感じた。
小田会長は「人は財産」と言い切り、人の力を無駄にしない、人の力を最大限に活用しながら経営を成長させることを深く考えており、当然、そのための強固な人事管理・教育システム作りがあった。こうした不断の取り組み、努力が長年にわたって業界トップの評価を受け続ける力を生むエンジンを回しているのだと実感した。
20年間にわたって毎年、20人の職員を「ザ・リッツ・カールトンホテル」など米国研修に継続して次々派遣しているが、これにはイノベーションを起こそうというトップの強い意志、精神力、そして知性を見た。これは、しっかりした理念に基づくものなのだろう。この研修では社員も会社任せではなく、自分たちも一部費用を負担していると聞く。「自分たちが一流にならなければお客様に一流のサービスは提供できない」というトップの思いに応えようとする社員の気持ちを感じる。
自分を磨くのは働く者として当然のことだが、みんなが、ただ独りよがりの自己満足で知識、技術をバラバラに追求しているのではなく、加速する時代の変化に取り残されないようマーケットの変化を見定める確かなビジネスマインドを身に付けようとしている、あるいは身につけているからこそ、長年業界トップを維持できるのだと思う。社員の中にもまた、理念に基づく精神力、知性を見ることができた。
より良い医療とは、神の手、匠の技などと言われる高い医療技術の追求だけではない。もう一方で、より多くの患者さんが満足する医療サービスを提供できるシステムがきちんと作れるかどうかが大事であり、いま求められている。このニーズの変化にどう対応していくかを考える時、医療機関にとって加賀屋のビジネスマインド、経営姿勢から学ぶことは多い。
明確に基準と目標を定めた研修を
旅館のミッションについて小田会長は「明日への活力注入産業」と明確に位置づけていた。これはエンドレスに続く経営のテーマであり、常に考え抜いている人だからこその言葉に違いない。まさに、確かな「経営の連続性」の表れであるし、経営として力を入れているところだろう。訪れる人たちに活力を注入したい、元気になってもらいたいとの意気込みがみなぎっている。飽くなき経営の追求とは言うのは簡単だが、実際にミッションが企業活動のエンジンになっていて、そのミッションを堂々と宣言できるというのは大したものである。
「グローバル化」に関して、加賀屋は海外進出にあたって、彼らの誇りでありミッションである「おもてなしの心」が世界に通用するものであることを示すため、基準を明確にし、目標を定めて徹底的に研修を行った訳だが、この点も医療機関、とりわけ透析施設にとって人材教育や組織、システムを考える上でヒントになるところだと思う。
医療機関の場合、教育というと専門資格を取ったらお仕舞いといった感じになり、後はともすれば形だけで系統だった教育を受ける機会がほとんど無いのではないか。それでは技術レベルもマインドもバラバラの職員集団になってしまう。焦点を定めて職員集団を目標に向かわせるミッションや、そのための不断の教育、指導があるかないかによって、当然パフォーマンスに差が出てくる。
いずれにしても、人にとっても組織にとっても勝負の分かれ目は、知性、知恵のような気がする。それが育つ心と組織風土が求められている。