- 透析JOURNAL
- interview
- “加賀屋の流儀”に学ぶ「持続的な競争優位」の実践
- 海外研修を通じてグローバルスタンダードを知り、視野を広げる
3.海外研修を通じてグローバルスタンダードを知り、視野を広げる
- 櫻堂
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サービス産業の本場、アメリカヘの視察研修を実施している他、会長ご自身も、地元七尾市と姉妹都市提携をしているカリフォルニア州のモントレー市との交流を通じて、和倉温泉全体の魅力づくりに尽力されていますね。
- 小田
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和倉温泉は能登半島の東部、七尾湾に面していて、七尾市は天然の良港として栄えたのですが、輸送手段が海から陸へと変わり、次第に隆盛を失っていきました。そこで同じような問題を抱えながら解決した「まち」はないかと、国内外に目を向けて探したところ、半島にあること、港町であることなど、条件に合った「まち」が見つかった。それが、アメリカ西海岸のモントレー市です。
私は1986年以来、何度もモントレー市を訪れ、市長をはじめ多くの市民の方たちと「港のまちおこし」について交流を図ってきました。89年からは「モントレージャズフェスティバル・イン能登」を和倉温泉で毎年夏に開催し、95年にはモントレー市と姉妹都市提携を結びました。私はモントレー市から、4月28日を「小田禎彦の日」に制定していただいて、向こうに行くとみんながウエルカムパーティーを開いてくれるのです。そんなつながりもあって、24年前から地域の若者を2週間の日程でアメリカツアーに行くジュニアウィングスプログラムのお手伝いをしています。
それと並行して、社員の自己啓発を促すために、毎年20人ずつアメリカへの視察研修を実施しています。1回10日間程度で、「ザ・リッツ・カールトン」などの超一流ホテルに宿泊し、大学でセミナーを受け、アメリカの最先端のサービスを体感させています。
ザ・リッツ・カールトンは砂丘地に建っていて海が見える。中に入ると、何とも言えない心地よい香りが漂い、ロビーではピアノが奏でられ、ホテル中が花で埋め尽くされているんです。次の日、ゴルフをしたいというから連れて行くことになり、みんなで素振りのまねをしていると、傍らにいたポニーテールの女性社員が「ナイスショット!」とか言って、人懐っこい笑顔を振りまいてウインクをする。こういうところがやはり世界一なんだ、と。サービス産業のグローバルスタンダードを知り、視点を変え、視野を広げて物を見ることが大切です。
- 櫻堂
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そうしたアメリカの最先端サービスを知るだけでなく、日常業務の再確認や新たなサービスの創造にもつなげていく訳ですね。
- 小田
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例えば、ウオーターフロント開発がそうです。
七尾市の場合は材木の物流ですが、特に冬は暗いイメージがあり、海に背を向けて建物がある。ところが、アメリカでは逆に建物は海に向かって建っていて、ガレージから車が出て行くみたいにモーターボートが海に繰り出していく。
このように、ウオーターフロントの捉え方一つを取ってみても、日米では大きな違いがあります。
モントレー市ではフィッシャーマンズ・ワーフ(漁師の波止場、転じて水産物などの直売施設)が観光の中心となり、多くの土産物店やレストラン、お菓子工場が並んでいます。そして、市民がベンチに座って編み物や、赤ちゃんのお守りをしながら日向ぼっこしているような光景がよく見られます。港にもこういう使い方があるのかということがよく分かる。
まさに視点を変えると、それまで見えていなかったものが見えてくる。そんな“目からうろこが落ちる”ような体験が、先に言った「個性20%」の部分を生かすことにもつなかっていく訳です。
- 櫻堂
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それだけに、伺っていてグローバル時代の人間関係づくりの重要さを感じます。
商売のポイントは“お客様の問題を誰よりもうまく解決する”
- 櫻堂
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また海外研修との関連でいえば、医療の面ではタイ・バンコク市に「バンコク総合病院」という私立病院があります。大変な勢いで成長していて、バンコク市民だけでなく、タイに駐在する外国人のために高水準の医療を提供する総合病院として開院されたこともあって、ドクターやスタッフも日本やアメリカの大学医学部を卒業するなど、留学経験者や日本人も含めて海外から招いた人も多い。しかも、将来を託すべき人材はスタンフォード大学などに定期的に送り込み、そこで学んだ後、再び復帰する、ということをずっと続けていて、最先端の医療を行っています。そうした地道な人材投資が花開いた例も出てきています。
- 小田
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医療ではありませんが、別の例では日本でも人気の韓流ドラマもありますね。いまでは監督以下、みんなハリウッドに行って学んでいるそうです。だから観る人を引き付け、面白いのだともいえます。
つまり、商売繁盛のポイントは何かと言うと、“お客様の抱える問題を誰よりもうまく解決する”ことです。医療の世界について言うと、患者さんが抱えている病気を誰よりもうまく、痛くなく治療してあげる。そんな医師やスタッフのいる病院には、評判を聞いてお客様が殺到することになるでしょう。
それを実現するためには、4つのマーケティングコンセプトが挙げられると思います。1つは「コントロール」、目標達成のための組織がしっかりしていることです。院長をはじめ経営者もスタッフも組織としてのミッションは何なのかをしっかり理解し、みんなで一致団結して取り組んでいるかどうか。
2つは「ターゲットマーケット」、対象となる市場の選定です。誰もが来てほしいというのではなく、例えば透析医療のことなら全て任せてくださいと、対象を透析患者さんに特定するといったことです。
3つは「ポジション」、誰にも負けない、より優れた部分を持つことです。なぜ患者さんがここへやって来るのか。それには先ほど言ったSDA、平たくいえば取り柄、優位性は何なのか、ここがポイントです。それは言うまでもなく、一朝一夕にできる訳ではありません。
そして4つは「リソースユース」、資源の活用、配分です。アメリカヘ行かなきや治療できないと言われるようじゃダメです。ましてや頭脳が資本の日本じゃないですか。それには資源、お金を有効に投入し、SDA に磨きをかける。そうしてノウハウをつくり上げたところが勝ち抜いていける。マニュアルだって簡単にでき上がったのではなく、大変なお金と労力をつぎ込んでできたはずなのですから。
「筋肉質の経営」維持へ辛くても経営改革の断行を
- 櫻堂
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アジアでは、かつて“日本に学べ”といわれていた。ところがいま、医学・医療でも経営学でも“日本はもう目標ではない”というような動きが起きています。とはいえ、日本人の人材資源は均一性が高く、一定のレベルは保たれているし、依然としてポテンシャルは高いと思います。それだけに、日本の医療界はあまり挫折感を持たず、会長がおっしゃる4つのコンセプトで頑張って努力していくことが大事ですね。
- 小田
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おもてなしの心を育成する
- トップ教育
- トップ自らが個別に教育指導
- 加賀屋の流儀教育
- 全社員に加賀屋の「心」の講話
- 調理アカデミー
- 調理師全員の勉強会
- 加賀屋USAツアー
- <視点を変え視野を拡大>
- 一番効果的な教育
- <ツールボックスミーティング>
バブル最盛期には日本の企業がアメリカの象徴であるロックフェラー・センターを買収しましたが、いま振り返ってみると、そんな時代があったことが夢のような気がします。その後、“失われた10年”といわれて21世紀を迎え、デフレスパイラル、リーマン・ショックと続き、さらに東日本大震災という人々の人生観、価値観をも変えてしまうような出来事があって、日本はすっかり自信喪失しているんじゃないでしょうか。でも、ロックフェラーつながりで言えば、彼の言葉どおり、「分からなくなったら原点に立ち返れ」ということで、今がそのときかもしれません。
能登といえば伝統の輪島塗が有名ですが、昔は来客用に使われる実用品でした。それが高度成長で高級美術品、芸術品として扱われ、ものすごく値上がりした。それとともに職人たちの待遇もいっぺんに変わりました。ところが、輪島塗は素晴らしいものではあるのですが、現在では逆に生活用品ではないからといって売れなくなった。一度膨らんだ生活を縮ませるのは難しいと言われます。一度よい思いをすると、それを捨て去るのはむずかしいからでしょう。肥満体になって「ぜい肉」が付いて、これを絞って筋肉質にするのは大変辛くて、みんなそれから逃れよ うともがいている。こんな状態がいまの日本の縮図といえますね。
- 櫻堂
そんな中で、加賀屋さんはずっと日本一の座を維持して来られた。この間、従業員には常々「驕ってはいけない」と戒めてこられましたが、そう言われても実践するのは難しい。会長の言葉を借りれば、筋肉質を維持する方法というか、業務の拡大と人の育成のバランスをどのように取っておられるのですか。
- 小田
私たちは堅実な経営を行って来たはずですが、それでも知らず知らずのうちにぜい肉が生じてきました。そこで今、加賀屋グループでは「4大改革」イノベーションに取り組んでいます。
その1つは、スタッフとラインによる間題解決のための進捗管理の徹底、2つは、年間イベントを含む販促計画にもとづく営業力の強化、3つは、ミッション(役割・責任・機能)の明確化と多能工化の実現、言い換えれば人件費の不完全燃焼を解消する、4つは、仕人れの見直しによる経費管理の徹底、つまりムリ・ムダ・ムラの排除です。
「イノベーション」と言っても、変えてはいけないもの、変えなくてはならないものがある。バブル期をピークとした設備拡張のなかで、客室係の顔や名前を覚えるのも追いつかないという時期も確かにありました。人が多すぎると、末端までなかなか伝わりません。いかにして加賀屋の精神を守り抜いて行くのか。これは常に課題だと思っています。
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