- 透析JOURNAL
- interview
- “加賀屋の流儀”に学ぶ「持続的な競争優位」の実践
- 世界に通用するおもてなしの心で“明日への活力注入産業”を創造
1.世界に通用するおもてなしの心で“明日への活力注入産業”を創造
- 櫻堂
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これからの医療機関は、ドクターと医療スタッフの対話が一層重要になり、お互いにしっかりコミュニケーションを図りながら協力・協働作業で患者さんのQOLを維持・改善していくという新たなステージに移行しつつあります。
これは、単純に技術があればいいという話ではなく、人としてのコミュニケーション力、小田会長が常々おっしやっている「ホスピタリティー」という領域に行き着きます。ところが困ったことに、ホスピタリティーと言われても、なかなか分からない人が多いのが医療界の実態です。
加えて、医療界は大半が資格職、よって立つところは専門資格です。患者さんとのより良い関係とかQOLを高めようと思っているけれども、専門職には患者さんとの人間関係づくりに対して苦手意識がどこかにある。そんなジレンマをどう克服していったらいいのか、今日は教えていただきたいというのが本音です。
加賀屋さんの経営に関しては、既にいろいろな書籍や雑誌に紹介されていますが、なかでも特筆すべきは、おもてなしをはじめ、企画、施設面から評価する「プロが選ぶ日本のホテル・旅館100選」で32年連続総合1位(1981年~2012年)を維持しておられることです。
これは並大抵のことではないと本当に頭が下がる思いですが、加賀屋さんの理念あるいは経営哲学、平たく言えば加賀屋さんは何を目指そうとしておられるのか、ということからお聞きかせください。
“良い施設でも悪いサービスをカバーすることはできない”
- 小田
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実は、高い評価を頂戴すると、お客様も日本一の旅館だからと大きな期待を持ってお越しになられます。
その思い描かれたイメージとイコール、あるいはそれより上であればまことにめでたいのですが、もしこれを下回るようなことがあると、反動もまたすごい。ですから、そうしたブランドイメージは非常にありがたいことですけれど、社員にとってはプレッシャーというか、ご期待にきちんと応えなければいけないという精神的な負担も大きいのです。
それで私は社員集会などで「32年連続日本一になったのは、みんなの努力の賜物だと感謝している。しかし、これはあくまで業外関係者の評価であって、お客様が本当に心からそう思ってくださっていなければ本物ではない。だから、「“自分たちは日本一だ”とあぐらをかいていてはいけない。これで良いんだと慢心すると、進歩が止まり、やがて退化につながっていく。私たちにとって一番の敵はそこにあり、決して心構えを間違えてはいけない」といつも言っています。
それと同時に、新しい社員には「日本で一番高い山はどこだか知っているか」と聞くのです。すると、みんな何をバカなことを、という顔をする。しかし、「じゃあ、2番目に高い山は?」と尋ねると、「さあ、どこだろう?」と答えられない。そこで、「それみろ。1位だからこそ意味があるので、昨年までは1位でしたが、今年は2位でしたといっても通用しない。この商売をやっていく以上、日本一を維持していくのは富士山と同じように意味があるのだ」と。それほど1位と2位の差は大きいのです。
このように日本一を維持していくことの苦しみと喜びを体験しながら頑張っているけれども、ハード面では、一部に施設の老朽化、そろそろ手を入れないといけないところも出てきている。そんな中で、海が一望できる、自慢できる立派な部屋があるのですが、この部屋にお入りいただいて、受け持ちの客室係があまり慣れていないで、笑顔は良いが気働きが足りないようだと、お客様アンケートの答えは大体普通か、あまり良くないほうに「○」がつきます。
逆に、海が見えなくて条件がよくない部屋にお泊まりいただいても、ホスピタリティーあふれるベテランの客室係がつくと、アンケートの結果は良いほうに「○」がつくのです。
良いサービスが悪い施設をカバーすることはできても、良い施設が悪いサービスをカバーすることはできないのです。
お客様にはさまざまな旅行目的があります。そして、宿泊施設は良いに越したことはありません。しかし、私はこの世界に入って50年になるのですが、施設の良しあしを超えた「おもてなしの心」、ホスピタリティーがやはり一番のポイントではないかと思っています。