- 透析JOURNAL
- interview
- コヴィー博士の「7つの習慣」が示す人格主義と原則の力
- ソリューションは現場にあり、鍵はリーダーシップにあり
3.ソリューションは現場にあり、鍵はリーダーシップにあり
「自立」がベースになれば、日本人は欧米人よりもクリエイティビティを発揮できる
- 竹村
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真の知識労働者であるのなら、現場にいる人たちの中にはソリューションがあるはずです。彼らが自己リーダーシップを発揮し、またリーダーたちがそれを引き出しながら、本当の意味でのソリューションを創造的に生み出していくことができたらいいですね。
- 櫻堂
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そうありたいですね。
- 竹村
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そのプロセス、そこの原則を伝えているのが「7つの習慣」だと。
- 櫻堂
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そう思います。その最もベーシックなところで「依存」→「自立」→「相互依存」とありますが、まず、「自立」のところまでのプロセスをきちんともっていかないと、その後、大きな相乗効果をもたらすほどの「相互依存」に至るのは難しい。
ですから、現場レベルでは、「自立」までの主体性を発揮するレベルのことをきちんとやっていくことが大事だと思います。
- 竹村
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「7つの習慣」は、この「成長の連続体」の図(図5)のような構造になっています。
「依存」「自立」「相互依存」という3つのバーがあって、「依存」している人たちが「自立」をするために3つの習慣があり、「自立」をしている人たちが創造的に違いを活かして「1プラス1イコール3以上」にしていくために「相互依存」の状態にまでもっていきましょう、と。
これが一番効果性の高い方法で、成功している人はこの「相互依存」の次元に達していると、「7つの習慣」はご案内しているのです。
ただ、一段上がってから第二をできるようにして第二ができたら第三を…といった段階を踏む方法ではなく、その時々の私たちの成長度や成熟度に応じて「第一の習慣」があったり、「第四の習慣」と「第六の習慣」があったりする。
つまり、螺旋階段状に伸ばしていきましょうというのが、最後の「第七の習慣」(刃を研ぐ)なのです。
それに関して、私の偏見が入っているかもしれないのですが、欧米人と日本人とでは「7つの習慣」の捉え方がちょっと違う、と思います。
欧米の方々は、生活習慣、教育なども背景にあって、プレゼンテーションの技術も学んでいるので、自分の意見をはっきり言うなど、非常に「自立」しています。
日本人はその逆で、かつて村八分のようなことがあったからか、皆さんがなれ合いになってしまうことが多いようです。しかし、それぞれ「もろ刃の剣」で、欧米人は「自立」しているがゆえに、なかなか協力的になれず、「相互依存」に至らない。
日本人の場合は、仲良くするといったマインドは強いのですが、「自立」していない人たちが「相互依存」をしようとすると、なれ合いのような低いレベルでの、ただの依存状態になりかねない。
「7つの習慣」で見ると、欧米と日本ではそのような違いがあるのではと、思っています。
ですから、本当の意味で日本人の良さを活かすためには、一人ひとりがプロとして、人として、しっかりと「自立」していかなければならない。
また、その「自立」がベースになれば、日本人は欧米人よりもクリエイティビティが発揮できる素地を持っている、という感じがします。
- 櫻堂
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日本では、よく会議や打ち合わせをしますが、それ自体の目的を意識することは、あまりないんです。
「今日の会議の目的は何ですか?」と尋ねだりすると、それを批判と受け止めるような風潮もあります。会議のアウトプットも曖昧であるというのが、多いですね。
- 竹村
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ですから、システムがいったん作られると、その中で本当に効率よく従順に作業ができる。日本人の場合は、そのようなメンタリティがすごく強いのです。
- 櫻堂
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確かにそうですね。両極端な例かもしれませんが、日本人が「自立」まで到達するように心がけて一生懸命やっていけば、世界が相当に変わるかもしれない、という気がします。
「習慣」を継続することによって「人格」は磨かれる
- 竹村
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日本語版の『7つの習慣』のカバーでは副題として「成功には原則があった!」と赤地に白抜きの目立つ文字で書かれていますが、実は、その副題は日本だけのものなのです。マーケティング上は、その副題がキャッチコピーとなり、売れたのでしょう。しかし、本質的なミッションを考えると、それはあまりふさわしくないかもしれません。
コヴィー博士が考えた副題は、実は英語の本の表紙には書いてなくて、カバーのところに「Restoring the Character Ethic」と印刷されています。日本語に訳しますと「人格主義の回復」。実は、それが「7つの習慣」の使命だったのです。
- 櫻堂
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なるほど。
- 竹村
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コヴィー博士が、なぜ「人格」、「習慣」といっているのか。それはサミュエル・スマイルズの詩(図6)に集約されていると思います。
思いの種を蒔いて、行動を刈り取り、
行動の種を蒔いて、習慣を刈り取る
習慣の種を蒔いて、人格を刈り取り、
人格の種を蒔いて、人生を刈り取る。
これは「7つの習慣」にも掲載されている有名な詩で、思いが行いになって、行いが習慣になって、習慣が私たちの人格を築いていく、というのです。
その「習慣」を通して「人格」を磨いていき、また、その「人格」があるがゆえに、私たちの「習慣」をより高いレベルに引き上げましょう、というのです。その「習慣」と「人格」を行ったり来たりするのが「7つの習慣」です。
だから、7つの「行動」ではないのです。「習慣」を継続することによって「人格」を磨いていきましょうというのが、「7つの習慣」の意図しているところなのです。
コヴィー博士は「7つの習慣」を通して得た人格的要素について、誠実、成熟、豊かさマインド、と定義をしています。誠実については、日本語ではちょっとわかりにくいのですが、原書では「インテグリティ」(integrity)となっています。英語では、真の人格者のことを。“Men of Integrity”と表現したりします。
日本語の「誠実」に比べると、「インテグリティ」には、ものすごく重みがあります。「7つの習慣」のうちの第一・第二・第三の「習慣」を通して私たちは人格的な要素を養っていくわけですが、そこで一番私たちが養っている要素は何かというと、誠実さなのです。
また、誠実な人イコール「自立」をしている、というように定義をしています。そこがキッチリできていないと、他の人との約束が守れない。自分自身との約束も守れず、自分がやろうとしていることが果たせない。
そのような人格的に十分な強さを持っていない人が第四・第五・第六の「習慣」が関わる「公的成功」(注6)のほうに入ったとしても、やはり、「公的成功」はないのです。
その第四・第五・第六の「習慣」では、人格的要素のうちの成熟さが鍵になります。また、「7つの習慣」では、成熟さについて「勇気と思いやりのバランス」と定義をしています。
私たちが人に接するとき、悪い意味で勇気だけが強かったら「Win-Win」(注7)ではなく、「Win-Lose」(自分か勝ち、相手は負ける)を築いてしまう。逆に、悪い意味で思いやりだけが強かったら、「Lose-Win」(自分か負けて、相手が勝つ)の状況をつくってしまう。
ですから、最終的に私たちが「相互依存」の状態になるためには、勇気と思いやりが高いレベルで釣り合っているというような成熟さがなければならないのです。
書籍の『7つの習慣』には副題として「成功には原則があった!」と書いてあるので、何か目的を持って行動すれば成功するのではないかというように誤解する方が結構いらっしゃる。そうではなくて、「7つの習慣」を「習慣」として行うから、あなたの人格が備わって、それゆえに効果性を発揮することができるということなのです。
先ほど櫻堂さんがおっしゃったように、その人の人格的な強さという下支えがない限り、どんなケースでも、どんなシチュエーションにおいても、私たちは得たい結果を得ることはできないのです。
注6
第四~第六の「習慣」によって築かれるもので、「自立」した人間が「相互依存」することで、もたらされるものでもある。また、「私的成功」が先立つ。
注7
自分も勝ち、相手も勝つこと。それぞれの当事者がほしい結果を得る、という意味。人生を競争でなく、協力する舞台と見るパラダイム。
- 櫻堂
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そのとおりだと思います。ですから、職員の方たちには「7つの習慣」の本を渡していますが、「まず、セミナーに行ってごらん。セミナーでは、また全然違う視点から自分にインプットされるから、本も読みやすくなりますよ」と話しています。
実際、セミナーに行った人たちは、みんな、そう言いますね。
人に変わってほしい、人に尊重されたいと思うのなら、まず自分が変わり、人を尊重しなければ
- 竹村
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コヴィー博士は昨年、亡くなられましたが、一昨年、来日された時に300人ほどのイベントを開きました。
会場の方々は、おそらく、その娘さんに具体的にどう対応すればよいかという答えを期待していた。
その「Q&A」の時間に、ある方が「娘にしてもらいたいことがあって、それを娘に言うのですが、まったく言うことを聞いてくれません。そして、娘から何か言われたら即座に反応してしまい、Win-Winの関係になりません。どうしたらWin-Winの関係ができるのですか」と質問しました。「7つの習慣」の権威が何と答えるのか、私はステージにいて、会場に集まった方々の耳が“ダンボ”になるのが見えるようでしたが、コヴィー博士は「それは忍耐と共感です」と、二言だけおっしゃったのです。
でも、そこはスキル、テクニックではなくて、人格的な下支えであったり、インサイド・アウト、まずは自分から変わっていこうとすることが必要です。そのようなことをしない限り、私たちは得たい結果を得ることができないのですね。
これは、医療現場や家庭の中だけでなく、どこにでも当てはめることができる原則です。その人に変わってほしいと思うのなら、まず自分か変わっていかなければならない。その人を理解したいと思うのなら、その人の言葉だけでなくてパラダイムのところまで理解しないといけない。その人に尊重されたいと思うのなら、その人を尊重してあげなくてはいけない。当たり前といえば当たり前のことですが…。
- 櫻堂
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コヴィー博士は人格主義を強調していますが、今の時代はスピードが速くなってきているので、何か即席でやり方を学ぼうという傾向がとても強い。
要するに、一瞬にして売上げを伸ばす方法とか、モチベーションをすぐ上げる方法などに飛びつきがちになってしまっているのです。
- 竹村
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ドクターも看護師も、専門的な教育を受けてきた方々で真のスキルを持っていますし、スキルは大切なものです。
しかし、同時に人格的なところを養い続け、自己リーダーシップを発揮していかない限り、せっかく持っているスキルも活かせないんですね。
- 櫻堂
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そのとおりですね。「7つの習慣」を通して、そこをきちんとしていくことが重要なのだと思います。
- 竹村
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思想家で作家・詩人のヘンリー・ソローが言っているように、「悪の葉っぱに斧を向ける人」はたくさんいますが、「根っこに斧を向ける人」は本当に限られています。
「激流」の中で私たちが変わっていかなければならないのだったら、本質的なところとは一体何なのか考えてみる。「7つの習慣」は、いろいろな分野に当てはめることができる原則なので、ぜひ、そこから何かを気づいていただけたらいいと、思っています。
パラダイムを転換し、鍵となる人格とリーダーシップを高め合う取り組みを
- 櫻堂
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最後に、医療界へのメッセージをお願いします。
- 竹村
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糖尿病のような生活習慣病の患者さんたちは、ドクターとのフェイス・トぅ・フェイスで治癒されるのではなく、生活の中で治癒されていくわけですから、患者さんたちは自己リーダーシップを発揮していかないといけない。そのため、看護師など医療従事者が「7つの習慣」を糖尿病の患者さんに教えることを通して、彼らの自己リーダーシップを高めようというプロジェクトがあり、私も関わらせていただいています。それが一つのヒントとなっているのですが、やはり、鍵はリーダーシップだと思います。「7つの習慣」の中でコヴィー博士が一番言いたかったのが、リーダーシップなのです。
今回、このような対談の機会をいただき、私もあらためで医療界を眺めてみて、いろいろ調べたり確認していく中で、鍵の一つは人格であり、もう一つ選ぶとしたらリーダーシップだ、と思いました。
例えば、セカンドオピニオン、インフォームド・コンセントなどによって医療が多様化している中で、患者さん自ら、正しくリーダーシップを発揮してもらうようにする。そのように導くことは外的にとても大切です。
また、内的には、ドクターの方々が組織の中で偉くなっていったとき、上司部下・主従といった関係ではなくて、その医療チームの一人ひとりから彼らの中にあるものを引き出し、知識労働者としてリーダーシップが発揮できるようにしてあげる。そのために、ドクター自身もリーダーシップを発揮できるようにする。
医療従事者の方々も、患者さんが自己リーダーシップを発揮し、自己マネジメントができるように導きながら、患者さんと付き合っていく。根本的には、まず、そのようなパラダイム転換が必要だと、強く感じました。
- 櫻堂
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やはり、トップがそのような姿勢で、職員、チームのメンバーの思いを引き出してあげたら、そのメンバーや患者さんとの新しい関係性も築ける、という気がしますね。
ですから、まさに「鍵はリーダーシップにあり」だということになります。
- 竹村
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上に立つ方々は、誰かが変わったら私も変わるというのではなくて、まずは自分が変わり、そして他の人が変わるというように、自分からリーダーシップを発揮していく。そのように決意した人を中心として、流れが変わっていくのではないでしょうか。
- 櫻堂
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とても良いエールをいただきました。本日は、ありがとうございました。
竹村 富士徳氏 プロフィール
1995年、旧フランクリン・ウェスト社日本法人に入社。経営企画、経理、人事、商品開発、販売、物流などさまざまな分野を担当し、同社に大きく貢献。 97年、同社副社長に就任。98年、合併に伴い、フランクリン・コヴィー・ジャパン(株)最年少の取締役に就任。米国本社との折衝、日本国内での事業の再構築などで実績を上げる。2000年、取締役副社長に就任。12年、筑波大学客員教授に就任。著書に『タイム・マネジメント4.0ソーシャル時代の時間管理術』(プレジデント社)など。講演は多数。