- 透析JOURNAL
- interview
- コヴィー博士の「7つの習慣」が示す人格主義と原則の力
- なぜ今、「7つの習慣」なのか
1.なぜ今、「7つの習慣」なのか
現場に、技術や知識の前提となる土台がなくなっている
- 櫻堂
-
私事になりますが、15年くらい医療機関の経営コンサルティングの仕事をしてきて、「ホスピタリティを上げなければいけない」「ミッションを掲げてきちんとやらなければいけない」などといろいろ提案して、それに関連するスキルを提供してきたのですが、長続きしないのです。例えば接遇のトレーニングをすると、それこそ3日間くらいは持っても、次に訪問した時には、もう効果がなくなっています。これでは駄目だと思いました。根本にあるのは、まさに「7つの習慣」で言われている人格をどう鍛えるか、ということなのです。
私は大学のMBA(経営学修士)コースでも教えていますが、学生もスキルだけではいけない、という問題意識を持っています。技術や知識の前提となる土台がないといかんともしがたい、 と思っているのです。また今、「MBAは意味があるのか」と言われ、MBAは反省期にあります。スタンフォード大学などでは、自己のミッションを確立すること、人間の本質に迫る「内省」といったことを教えていると聞きます。
技術や知識は、それはそれで大事なのですが、根底の部分が整っていないと、たぶん、人間は途中で駄目になっていく。
例えば、上級管理職になれたけれど幸せではなかったという人も結構多い。ですから、もう一度、根底に戻らなければいけないのではないかということで、竹村さんのセミナーのDVDなどを見て「7つの習慣」を勉強し、そのエッセンスをクライアントに伝え始めたのです。そうしたら、小さな変化なのですが、変わる人はやはり変わるものなんてすね。
まったく駄目だった人が変化を始める。それはうれしいことですし、本誌のような情報誌で、医療機関に対して情報提供をしていく必要があるのではないか。私は今、その思いを強くしています。今日は、「7つの習慣」の神髄に少しでも触れることができればと、強く願っています。ただ「7つの習慣」は初めてという読者が多いと思い、誌面の冒頭でコヴィー博士と本の簡単な紹介をしていますが、十分ではありません。そこで、まずそのあたりからお話しいただければと思います。
「7つの習慣」はビタミンみたいなもの
- 竹村
-
スティーブン・R・コヴィー博士は、もともと米国ユタ州のブリガムヤング大学の教授でした。米国建国200年記念に、それまで成功を収められた方々の習慣・特性について、かなりの時間をかけて調べられた結果、そこには共通する7つの習慣があることがわかったのです。それらを「7つの習慣」としてまとめて、ご案内しています。また、ビジネス書『7つの習慣 成功には原則があった!』の形で紹介させていただき、全世界でベストセラーとなっています。日本人の読書離れは本当に激しく、出版業界が縮小を続けている状況下で、特段のプロモーションをしているわけではないのですが、『7つの習慣 成功には原則があった!』の販売部数は驚異的で、今も年間5万部から7万部くらい売れています。
それでも、私たちのビジネスは出版がメインではなく、基本は法人向けにB to B(Business to Business)で研修やコンサルティングを行うことです。その研修という観点から見ても、世界に存在するトレーニング・プログラムの中で、受講者の多さからも「7つの習慣」に肩を並べるものは、まったくありません。「7つの習慣」は、そのような商材になっているのです。
ただ、「7つの習慣」というブランド名は多くの方が聞いたことはあるとおっしゃるのですが、『7つの習慣 成功には原則があった!』というビジネス書の形で、あるいは商材として存在しているため、「7つの習慣」はビジネスに関するものと理解している人が多い。ですから、ご指摘のように、ビジネスを意識しないような分野・業界では「7つの習慣」を知らない人も多いのです。
しかし、実際の「7つの習慣」のコンテンツは、老若男女、あらゆる産業に応用できるものになっています。例えば、医療の中でも患者さんが自己マネジメントをしていかなければならない分野には「7つの習慣」が応用できます。それで、私たちは、医療関係者による「『7つの習慣』で糖尿病に克つ」といった取り組みにも関わっているのです。教育の分野、学校の中にも「7つの習慣」が入っていて、子どもたちの人間性教育、人格教育のために、道徳や総合学習などの時間の中で先生方が「7つの習慣」を教えています。
私は今、筑波大学の体育専門学群に客員教授として教えに行っています。なぜ体育専門学群かというと、そこの学生は体育・スポーツとしてのスキル、技術に関してはいろいろと学んでいるものの、人間性、人格を形成するためのカリキュラムには「7つの習慣」ほどのものがなかったからです。
よく、「スキルとマインド」というように、それらを分けて対比した言い方をしますが、日本人はスキルのほうが目に見えてわかりやすいので、好きなのですね。学校や会社で学ぶのも、基本はスキルなのです。
一方、一般にいわれているリーダーシップ、モチベーション、人間性などは、すべてマインドのほうに入るのですが、これについて普遍的な原則を使いながらキッチリとしたパッケージングで教えているものは「7つの習慣」以外には、ありません。
また、コヴィー博士は「7つの習慣」についてビタミンみたいなものだ、とおっしゃったことがありました。ビタミンは太古の昔から存在していたのだけれど、ある人がそれを見い出し、ビタミンという名前を付けてパッケージにし、商品として流通に乗せ、コンビニでも買えるようにした。
「7つの習慣」もそうで、そこに書いている原理原則は決してコヴィー博士独白のものではなくて、すでに皆さんの中や周りにあるものなのです。例えば、ビタミンはサプリメントとして自分で摂ることもできるけれど、実は自分の体の中にもあり、自分の中から引き出すことができる。「7つの習慣」も、それと似ています。
3・11で日本人の価値観が大転換する中で広かった「7つの習慣」への関心
- 櫻堂
-
その点に関して、びっくりしたことがあります。昨年10月頃、ある大学のデザイン学科で教授をしている友人が、「すごくいい本に出合った!学生にいろいろな本を使って教えているけれど、もう教科書なんか要らないよ。この本が一冊あればいい」と言ったのです。「何の本?」と聞きましたら、「『7つの習慣』だ。この本に書いていることができるようになれば、大学での教育は十分だと言えるだろう」と興奮気味に言うので、「ぼくは、もう3回そのセミナーを受けているし、本は何十回も読み返したよ」と話してあげました。
教育者が「7つの習慣」に感動しているのです。「7つの習慣」って本当にすごいなと、思いましたね。
- 竹村
-
日本は戦後、「行け、行け」で欧米主義・西欧化をずっと進め、右肩上がりが続いてきました。しかし、行っても行っても自己実現になかなか結びつかず、本当の意味での満足感・充実感が得られない。
特に2008年のリーマンショックや3・11東日本大震災以降、本当に大切なことは何なのかと考え始めた中で、人間性や人格に基づくものに結びついている「7つの習慣」が、すごく重宝されるようになりました。
実際、『7つの習慣 成功には原則があった!』は、リーマンショック前、年間3万部ほどの売上げだったのですが、その後は年間5万~7万部というように売上げが増えています。日本人は本当に「激流」のさなかにあって、「バック・トゥ・ベーシック」と言いますか、変わらない基盤や軸を求め始めている。私は、そのように強く感じています。
- 櫻堂
-
おっしゃるとおりです。最近、ネットで「7つの習慣」に関する話題を頻繁に見ます。3・11以降、我々日本人の価値観は大転換しました。それまでは経済を追い求めてきたけれど、今はちょっと違う。本当に大事なものとは一体何だろうと考えることに拍車がかかったという感じがするのです。その意味で、竹村さんは「B to B」とおっしゃいましたが、C(consumer一般消費者)のほうが結構気づいているのではないかと。このCに対するプログラムはないのでしょうか。
- 竹村
-
まさに今、それを展開している最中でして、参加していただきやすいように土曜日や日曜日にセミナーを開催しています。
私たちのミッション、思いはCにとどまらず、例えばアジアの発展途上国も視野に入れています。それに関して、コヴィー博士は「『7つの習慣』は、西洋からではなく、本当は東洋から出るべきものではなかったのか」と言っていました。また、経済的にも先行き不透明な中で、アジアの中での先進国の日本は、もしかしたら、今までのやり方とは違う指針を示すことのできる唯一の国ではないかと、私たちは思っています。
その指針になるものは、政府や企業の中ではなく、おそらく人間の中にある。人間の中にあるものを解放し、リーダーシップを発揮してもらう。そのような役割を担っていくことができるのが「7つの習慣」です。
また、それについてきちんと教えることができるのは「7つの習慣」しかないのかもしれない、と感じているわけです。
- 櫻堂
-
よくわかります。「7つの習慣」の本は内容が非常に重くて、読むたびに視点が変わり新しい発見があります。また、「7つの習慣」の根底にあるものは日本人に相通じる部分が多く、それは古くから日本人の中にあるものだと思います。
月曜日午前中の透析施設は自己コントロールができない「刺激と反応のモデル」状態
- 櫻堂
-
医療に話を移しますと、規制業種ゆえに結構ガードされ、外部の圧力をもろに受けることがないため、医療機関の経営環境はそれほど変化していません。その経営について、医療関係者は「苦しい、苦しい」と言いますが、一般の比ではないのです。
そのような中で病医院を経営する医師の方々は、リーダーとしてご本人は悩んでおられるのかもしれませんが、自己変革をするぞという動機は弱いようです。医療従事者、従業員の意識も、昔のように「医療のために身を粉にして働く」という人から、「賃金が良いから働く」という人まで、結構幅があるわけです。
また、偏差値教育の弊害だと思うのですが、「あなたは頭がいいから医学部に行きなさい」と言われて医師になった人も多い。ですから、「私の人生は一体何だったのか。医師の仕事は、本当はやりたいことではなかったのかもしれない」と自問しつつ、日々患者さんを診療しつづけるというように、職業的な使命感との狭間で悩んでいるドクターもおられます。
御社では「7つの習慣」を糖尿病の治療に応用した『「7つの習慣」で糖尿病に克つ』という本も書かれていますが、それが活用されるマーケットとしての医療界は、まだまだこれからだなと思います。
ですから、私か医療現場でまず職員たちに教える「7つの習慣」のコンセプトは「インサイド・アウト(内から外へ)」(注1)だったりするのです。
注1
自己の内面を変えることから始めるということ。例えば自分の根本的なパラダイム、人格、動機を変えるなど。
- 竹村
-
それは、自分から変わっていきましょう、ということですね。
- 櫻堂
-
一番反応があるのは、重要事項を優先するための時間管理です。その演習をやってもらうと、「ああ、そうだったね」というような、すごい反応がありますね。ですから、医療界、特に透析の現場においては、そのあたりのインフォメーションから始めるのがいいのではと、思っています。
透析は副作用として血圧が下がることがあります。
透析の患者さんは、土曜日・日曜日にたくさん食べて、たくさん飲む傾向にあるので、体重が増えてくる。そこへ月曜日の透析で血液全体のボリュームを下げるので、当然、血圧も低下する。血圧が低下しすぎるとショックで死亡する恐れもあるので、それを止めなければいけないと、その日の朝の現場は慌ただしいのです。
それはまさに、「刺激と反応のモデル」(注2)なのです。しかし、患者さんのそのような血圧低下のパターンは予測できることなので、事前に手を打てばコントロールできるはずです。
にもかかわらず、月曜日の透析の現場では毎週のように、血圧が低下した患者さんのところにバタバタと集まってきて、他が手薄になる。そのため、職員は施設の経営者に向かって「院長、人手が足りません。人を増やしてください」と訴える。しかし、それは月曜日の午前中だけのことなのです。
まさに「7つの習慣」のうちの「第三の習慣」として、重要事項を優先し、時間管理のマトリックスでいう第2領域(重要だが緊急でない活動)で計画し準備をして、カンファレンスを行い、患者さんの教育・指導をすれば、このようなことは起きないはずです(注3)。そうやって話をすると、初めてわかってくれる。「7つの習慣」での事例は、医療界の至るところにあります。
それらについて、いい“翻訳”をして説明すると、彼らの心に刺さるという気がするのです。
注2
人は『刺激と反応』の間に選択の自由を持っているということを強調している「第一の習慣」(主体性を発揮する)で紹介されている、パブロフのイヌの実験に起因するモデルのこと。
注3
「第三の習慣」(重要事項を優先する)の主要分野に時間管理があり、「時間管理のマトリックス」として4領域が示されている。第2領域は、効果的な自己管理を目的として緊急ではないが重要な事柄が取り上げられている。
- 竹村
-
重要だけれど緊急ではない活動に時間を投下することによって生産性、効果性を高めよう、ということですね。ところが、現実は皮肉にも、そこにまた人を入れようといったことになっている…。
- 櫻堂
-
そうなのです。職員が文句を言ってくるものだから、院長もあせって、人を入れたりする。透析の業務は標準化されているので、職員たちが日々することは決まっています。そのような中で人が増えると、空いた時間が増えるにもかかわらず、患者さんにフォーカスした大事な仕事を考え出さないで、いさかいを始めることも出てきます。
「あの人のやり方は何かおかしい」「あの患者は何か気に入らない」など、話がどんどん内向きになっていく。そうなると院長は、せっかく人の投資をしたのに何だと、また悩んでしまうわけです。