医療経営戦略研究所
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宮本髙宏(株式会社全腎協) VS 桜堂渉(医療経営戦略研究所)

1.3県で透析患者約3千名が被災

櫻堂

今回の東日本大震災では、テレビの画面で「透析」というテロップを目にしない日がないほどでした。社会の中に“透析患者さんは大変なんだね”といった認識も生まれたと思うのです。また、被災地以外の医療機関でも、多くの被災地からの透析患者さんを引き受けたりしています。一方、テレビで「透析」というテロップの文字を日々見ていると、一体、透析患者さんはどうなっているのだろうという疑問が、多くの視聴者、国民の中に生まれたと思うのです。

そこで、本特集では、はじめに事実認識をきちんとしたうえで、何が課題となっていて、今後どのように対応する必要があるのか、冷静に考えていきたいと思います。まず、全腎協の対応も含め被災地の実態についてお聞かせください。

宮本
宮本氏写真

わたしは兵庫県在住で、16年前に阪神・淡路大震災を経験しました。また当時、兵庫県腎友会の役員をしていて、透析医療の確保に中心になって取り組みました。それが、わたしの災害対策の根底にあります。そしてわたしども全腎協は、透析患者の当事者団体として平常時もそうですが、とにかく透析患者が十分な透析が受けられるようにすることを活動の第一の目的としています。それも、単に透析が受けられるだけでなく、患者さん個々に応じた透析が十分に受けられるべきだ。そのような考えの下、全腎協として災害対策もとってきました。また、医療提供側の日本透析医会、日本透析医学会も、そのようなことを前提に、対応をとってこられたと思います。

しかし、如何せん、わたしどもも、医療者側も、阪神・淡路大震災が最高レベルの災害と想定したうえで、すべての対策を講じてきたと思います。ところが今回の東日本大震災は、阪神・淡路と比べると災害規模がはるかに大きく、地理的な範囲も数十倍になります。阪神・淡路での経験をはるかに超えてしまっていて、機能した部分と機能しなかった部分が、如実に現れたと思います。

わたしは4月上旬と下旬に各2日間、現地に行きましたが、事実として報告しますと、災害が大きかった岩手、宮城、福島の3県では約1万2千名の透析患者さんがおられ、おそらく3千名くらいが被災をしている。そのうちの1200~1300人ほどが、被災地から他の地域に出ているか、被災地内でもそれまで透析を受けていた医療機関以外で透析を受けている、あるいは一時的に受けていた、という現状があります。

また、阪神・淡路の時には、幸いにも、震災を直接の原因として亡くなる透析患者さんはいませんでしたが、今回は、4月上旬(第2週)に行った時点で、宮城県石巻市の沿岸部にあるクリニックでは16名の患者さんが亡くなっておられる、と聞きました。そのほか、宮城県岩沼市、岩手県釜石市なども含めると、3県の沿岸部で二十数名の透析患者さんが、地震というよりも、その後の津波によって亡くなっておられる、という事実があります。その数からも、阪神・淡路大震災とははるかに被災規模が違う、と思いました。

また、2名の透析患者さんが避難所で死亡したことが大きく新聞報道されましたが、この患者さんたちは災害の難は逃れたけれど、その後、透析を受けられなかったために亡くなられたのです。全腎協は透析患者さんの命を守ることを大命題として掲げながら、患者さんの命を守りきれなかったことについては、非常に残念で、悔しい思いをしました。それだけに今後は、どんな時でも透析を十分確保できる仕組みを構築しなければならない、と強く思っています。

櫻堂

1200~1300人もの透析患者さんが一時的にせよ域外に避難したり、被災地内の他の医療機関で透析を受けているということですが、被災地周辺の医療機関は、通常稼働ができているのでしょうか。それとも、患者さんが増えてしまったがゆえに、透析の時間を短縮するなど、いろいろな工夫の中で患者さんを吸収したりしているのでしょうか。

宮本

現時点では、3県ともほぼ通常の透析に回復してきていると思います。例えば、宮城県には透析医療機関が54施設ありますが、気仙沼市の少し南にあった施設が津波で流出したほか、3施設が大きな被害を受けています。それ以外の50施設は、ほぼ通常の稼働をしています。ただ、沿岸部の患者さんは住まいの問題があるので、岩手県でしたら盛岡市周辺、宮城県でしたら仙台市周辺、福島県でしたら二本松市や郡山市など内陸のほうに移って透析を受けているケースが多い、と思われます。福島県の場合は、原発事故という人的災害が加わっていますので、原発周辺の患者さんは避難指示や屋内退避指示などにより、地域内から出ざるを得ない。その範囲が広がるに従って、避難所も転々としなければならない。また、避難所を移動するということは、透析医療機関も変えなければならないわけです。ただ、透析医療自体は、ほぼ通常の状態に戻ってきていると思います。

避難所の食事は患者に配慮していないだけに自己管理が重要に

櫻堂

となると当然、避難所にいながら透析に通っている患者さんもおられるのですか。

宮本

沿岸部は、いまだに、かなりおられます。また、避難所も格差があります。例えば釜石市でしたら、先々週(4月第3週)で20名くらいの透析患者さんが避難所におられました。

櫻堂

避難所の近くの医療機関に通わざるを得ないですね。

ところで、透析患者さんは栄養がきちんと担保されていないと、いくら良い透析をしても、だんだん体調が悪くなっていきます。避難所の場合、ある程度の食事は摂れているのですか。

宮本

まったく摂れていません。まず、食事が十分にある避難所もあれば、極端に不足している避難所もあります。総じて言えば、我々のような慢性疾患を有している患者に配慮したり、食物アレルギーを持っている子どもに配慮したような非常食、避難食は、全然用意されていません。透析患者さんが6人くらいおられる避難所は、先週(4月第4週)の時点で、朝食は100%の野菜ジュースとあんパン1つ、お昼はカップ麹にゆで卵とバナナ1本です。しかし、透析患者にとって、野菜ジュースやバナナはカリウムが高く、カップ麺はリンが高く、共に制限しなければなりません。

櫻堂

どうすればよいのでしょうか。

宮本

基本的には患者自身が、自身の疾患について十分に理解しておくことが大切だと思います。そして、自己管理ができるようになった人は、例えばバナナは半分くらいにしておこう、カップ麺にしても、おなかがすいているから食べないわけにはいかないけれど、汁を飲むのはやめよう、と。患者さんも、それができる人、できない人というように、両極が出てしまいました。ただ、次にいつ食べられるかわからないという恐怖心もある。それで全部食べてしまうと、水分や塩分の摂取も増え、カリウムも上がってしまいます。

また、物資が十分届く避難所や自衛隊などによる炊き出しがある避難所では結構な量と質の食事が出ていましたが、そこでも同じように自己管理のできる人はセーブをし、自己管理ができない人はどんどん食べるということがありました。ですから今回、被災地内で何人かの先生方に話を聞かせていただきましたが、患者に対する評価は両面ありました。例えば「こういう緊急時にも、透析患者さんはしっかり自己管理をしている。素晴らしい」と、褒めてくださる医師もおられた。一方で、「全腎協は一体どういう活動をしてきたんだ!」と叱責されたこともあります。また、「コミュニティとして互いに助け合うことができないものなのか」と、指摘を受けたこともあります。

櫻堂

従来から指摘されてきたとおり、透析患者さんには自律・自立ということがとても重要で、自己管理ができる体制をどう築くか。それは、災害時に限らず、全体の課題かもしれないですね。

宮本

はい、日常でもそうですね。

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