- 透析JOURNAL
- interview
- 異業種に学べ!世界最高のホテル リッツ・カールトン・ホテルに学ぶ真のホスピタリティとは?
- やる気を引き出す従業員の3つの権利
5.やる気を引き出す従業員の3つの権利
- 櫻堂
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最後に、スタッフのやる気を引き出し、持続させるための仕組みについてお聞きしたいと思います。リッツ・カールトンには従業員へのエンパワーメント(権限委譲)があるそうですね。
- 高野
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それには3つあります。1つは、上司の判断を仰がずに自分の判断で行動できること。 2つはセクションの壁を越えて仕事を手伝うときは自分の通常業務を離れること。 3つは1日2千ドルまでの決裁権です。これらは、お客様にとって一番良いサービスの方法を考えた時、迷うことなく最善の方法が選択できる環境を整えるという意味なのです。医療の現場でどこまで権限を任せていいのか、難しい場面もあるでしょう。しかし、医療の技術面に関わらない部分ではもっと伸び伸びとやっていいところがあるのでしょうね。
- 櫻堂
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医療のプロセスの中で、本当に技術的な要素というのは限られていて、実際にはそれ以外のことが多いのに、従事者は職種ごとの壁や限界を作っているような気がします。権限委譲を医療の中にも取り入れることは可能だと思います。
- 高野
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私は2年間、母を在宅で介護した経験があります。1ヶ月に2回、週末に介護休暇をとって東京と長野を往復していましたが、最後は私も疲れてしまい、地元の病院のお世話になることにしました。その時、看護師さんから母の若い頃の写真をたくさん持ってきてほしいと言われました。どうするのかと思ったら、40枚ほどの写真を壁いっぱいに貼っているんです。「こすると、お母さまが輝いていた頃を意識しながらお世話に当たれます。動けない患者さんが多いから、自分への戒めの意味で貼らせていただきます」と言うのです。 その話を聞いて、安心して母を預けられました。それは彼女たちが自分の判断でしている工夫だったのです。
- 櫻堂
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それは、まさに自分の頭で考えたホスピタリティの典型ですね。とてもすばらしい取り組みだと思います。 お客様の期待値を超えたときに感動が生まれると言われます。皆さん、リッツ・カールトン・ミスティーク(神秘性)を期待して利用しますが、それではエンドレスになりませんか。
- 高野
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お客様との絆を深める取り組みはアメニティ競争ではありませんし、ミスティークは、小さな感動から生まれるものです。20数年前、フィラデルフィアに住んでいた時、短期間ですが入院したことがあります。周りには日本人が一人もいないので心細い思いをしました。そんなある日、看護師さんが出勤途中で見つけた草花を摘んできてくれたんです。「今日、とても四季を感じたの。日本人のあなたならきっと喜ぶと思って」と言うんです。売られているきれいな花束をもらうよりずっと強く印象に残っていて、もしまたフィラデルフィアで入院することになったら、あの病院のお世話になりたい思うくらいです。
当時の看護師さんがまだいるはずはないんですけど(笑い)。 - 櫻堂
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今日は本当に意義深いお話をありがとうございました。
(協力 中外製薬株式会社)
高野登氏 プロフィール
1953年、長野県生まれ。プリンス・ホテル・スクール(現日本ホテルスクール)第一期生。 卒業後、ニューヨークに渡り、ホテルキタノ、NYスタットラー・ヒルトンなどを経て、82年、NYプラザホテルに。その後、SFフェアモントホテルなどでマネジメントを経験、90年にザ・リッツ・カールトン・ホテル・カンパニー入社。サンフランシスコの開業に携わるなどして、94年、日本支社長となり、大阪の開業準備にとりかかり、97年にオープン。 07年3月ザ・リッツ・カールトン東京開業。著書「リッツ・カールトンが大切にするサービスを超える瞬間」(かんき出版)がブレーク中。