医療経営戦略研究所
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國領二郎(慶應義塾大学総合政策学部長) VS 桜堂渉(医療経営戦略研究所)

1.「第三期:情報資産の時代」の到来

「医療の情報化」が特に必要なのは3つの領域

櫻堂

先生は、情報と経営の専門家として政府のさまざまな審議会に参画されていますが、まず、お話しいただきたいのは、国は何を考えているのかということです。例えば医療サイドで「医療と情報」「医療の情報化」という場合、思い浮かぶのが電子カルテであったり、技術的には遠隔医療であったりするのですが、もっと大きな枠組みの中で、国は一体何をしようとしているのか。最初に情報インフラだけを造っておき、あとから物を乗せて活性化しようとしているのか。そのようなマクロ的な側面からお伺いしたいと思います。

國領
國領氏の写真1

一言で「医療の情報化」には、いくつかの大きなテーマがあります。日本の現状を考えると、おそらく最大の課題は、限られた医療資源をどのように効率的に活用するか、そこをどのように情報技術がサポートするか、といったことではないかと思います。

それをサポートする具体的なものとして、例えばご指摘の遠隔医療があります。ジェネラル・メディスン(GM・総合診療)はあっても専門医がいないような地域に対して、遠隔医療でサポートするようなことは当然、やっていきたい。また、慢性疾患の増加を背景に、診療科をまたがった患者さんも増えてきているので、診療科間のコミュニケーションを良くすることによって医療が重複するのを防いでいきたい、と考えています。

やはり、情報が分断していると無駄が発生します。情報を結合すると、全体が見えるようになり、必要なところに必要なリソースが投入される。そのように、重複した投入はしないようにすることが基本です。「医療の情報化」が特に必要なところとしては、3つの大きな塊があります。

その1番目は、今の限られた、また偏在した医療資源を活用するための情報化です。例えば女性医師が子育て中で第一線に出られないようなとき、時間を限って医療相談のようなことをしていただく。このように医療資源を活用するための情報化が1つの塊としてあるわけです。

2番目はEBMに関することです。例えば、データに基づいて実証的に医療を行うことで医療を改善していきたいと思っている、たいへん志のある医師たちがいます。電子カルテ、レセプトのデータを集め、エビデンスに基づいて診療を行い、医療の質を向上させていこうとしているのです。

3番目はバックオフィス系での情報化。例えば、診療報酬請求、保険業務などに膨大な人的資源を投入しているので、請求業務などをいかに効率化するか、などです。

権威ある組織がデータを集めて評価する取り組みが大事

櫻堂

2番目の話には非常に興味があります。EBMに直接関係することではないのですが、ハーバード大学教授のマイケル・ポーターが著書の『医療戦略の本質-価値を向上させる競争』(日経BP社刊)の中で、質の競争がとても重要だとしたうえで、ただ診療実績を集めて見せても駄目で、その公開の仕方をうまく工夫しないとエンドユーザーである患者さんまで伝わらない、と指摘しています。情報化は、その質の向上を促進することになるでしょう。

また、これはうがった見方になるかもしれませんが、先生も関係しておられる「どこでもMY病院」は患者さん主体の情報収集システムというコンセプトで、個人の実績、検査数値などを蓄積していくという発想ですが、では、本当に質の競争は情報化によって促進するのでしょうか。

どこでもMY病院

全国どこでも自らの医療・健康情報を電子的に管理・活用することを可能にするとして、政府のIT戦略本部が打ち出している構想。遅くとも2013年までにその一部サービス(調剤情報管理等)を開始する、としている。

國領

それについては、データを集積したうえで評価をする仕組みを作らないといけない。また、ここで気をつけなければならない点がいくつかあると思います。

例えば死亡率、救命率の数値を良くしようと思うと、難しい患者さんを取らないようなことになってしまうわけです。もちろん、患者さんの満足も大事なので、データは取るべきだと思うのですが、いわゆる勝手サイトで、無秩序に患者さんのデータを取っているようなところもあるので、それには少し気をつけたほうがよいかもしれない。だからといって、そのような勝手サイトをつぶしてしまえとなどという気持ちは全くありません。やはり、ある程度権威のある組織がきちんとデータを集めて、評価をする。そのような取り組みが大事である、という気がします。

ちなみに、我々の情報の分野では一般的に、①メジャー、測定すること、②ビジュアライズ、見えるようにすること、③コミュニケート、の3つのサイクルを、ある信頼性の下で実現することが重要である、とされています。

勝手サイト

携帯電話でのインターネット接続サービスにおける非公式サイトのこと。

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