医療経営戦略研究所
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平田光子(日本大学大学院グローバル・ビジネス研究科 助教授/経営学博士) VS 桜堂渉(医療経営戦略研究所)

事務長が活躍できる仕組みがあれば

櫻堂

日本の法律では、医療機関のトップは医師です。しかしアメリカの多くは医療のヘッドと経営担当副院長の二本立てです。医療の質のコントロールや向上などは医師が担当するが、トータルプロデュースは経営担当がやっている。日本では、院長と事務長がいますが、事務長の多くは院長の下でまだ明確な役職や役割の位置づけがされていません。もう少し広い視野で、院長の足りない部分をプロデュースしたりコントロールできる人材なり仕組みがあると、さらに良くなるのではないかと感じます。

平田

医療マネジメントのプロフェッショナルですね。医師は日々の患者対応に追われて、難しいでしょう。本当に優秀な医師なら、産業界の経営者のようにコミッティーを作り、自分は得意ではないが、重要な領域を専門家に見てもらい、意見を聞いて、意思決定は自分でするという方法もあります。コミッティーは組織の内外を問いません。

櫻堂

やはり医療は、一般産業界から新しい仕組みや考え方を取り入れることで、イノベーションが生まれモチベーションが高まるなど、いっそう発展していくという感触を持ちました。

平田

現代は業界の境界領域が変化し、急速に業界地図が塗り変わってきています。電話やインターネットが一つの業界になったように、アメーバーのようにくっついたり離れたり、なくなったり生まれたりを繰り返しています。医療業界は、これまで国の規制に守られてきましたが、これからは規制緩和の荒波にもまれながら離合集散を繰り返すのではないかと思います。

櫻堂

高齢化が進むと、皆さん健康でありたいとか、美しく老いたいと希望します。美容や保健、アンチ・エイジングには医療の技術を応用できるわけですから、かなり境目がなくなってきます。そうなると新しいマーケットが生まれ、新しいモジュールを組み合わせた業態がでてくるでしょうね。

平田

「新しい製品、新しいサービス、既存の製品の新しい組み合わせを提供する」というのがベンチャーの定義ですが、これからはそういった医療ベンチャーが出てくるでしょう。しかし医療機関にとっては、組織風土が最も大事です。なぜなら、やって来るのは苦しい人ばかりで、楽しそうに来る人はいないのですから。ディズニーランドは楽しそうに来る人に対してさえ、あそこまでして気持ちを盛り上げているのに、病院に入ると「冷たい空気」ではどうでしょうか。

櫻堂

そうですね。ヒューマンサービスである以上、働く人たちの気持ちや人間的なものを高揚させ、モチベーションを高めて、生き生きと仕事をできるような風土と仕組みが必要だと思います。

患者の気持ちを癒す「場」づくりを

平田

最近は「場」の概念が重視されています。「場」とは何かというと、感情の伝播なのです。病院も、医師と患者、看護師、その他の医療職が構成するコミュニティであり、「場」です。苦しそうな患者がやって来たときに、どこまで気持ちを高揚させられる場を共有できるかは大切だと思います。

櫻堂

慢性疾患の場合は特に大事ですね。盲腸のように治る病気はいいが、もう治らなくても定期的に通わなければならない人は、精神的にかなりダメージを受けています。そこをどのように癒してあがれるかは、本当にとても重要ですね。現在の医療界はまだそこまで展開できていないですね。

平田

それこそ。壁の色や制服の色など、そんなにお金をかけずにサービスを向上させることはできます。

櫻堂

先ほどのディズニーランドの例もそうでしたが、ハードウエアーにお金をかけるのではなく、人のモチベーションや成長をそうやって促していくのかという視点は実に重要ですね。

平田

医療は究極の労働集約型産業であり、しかも機械もサポーティブな形で入ってくるのですから、これからまだまだ改善の余地はあるのではないかと思います。

櫻堂

確かにそうですね。本日は大変貴重なお話をありがとうございました。

(協力:中外製薬株式会社)

平田光子氏 プロフィール

平田光子

津田塾大学(学芸学部英文学科)卒、慶應義塾大学大学院経営管理研究科修士(MBA)、経営管理研究科博士課程終了、経営学博士。 日産自動車株式会社に総合職として14年間勤務後、ウィリアム・エム・マーサー株式会社(現マーサー・ヒューマンリソースコンサルティング社)経営コンサルタントなどを経て、平成16年より現職。「組織マネジメント戦略」(有斐閣)など著書・論文多数。

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