- 透析JOURNAL
- interview
- 「組織」を変え「人」を動かす
- 次のアクションにつながる指標をゴールに
医療機関は理念で変わる
- 櫻堂
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それでは、どうやってゴールをセッティングするかという話ですが、たとえば、患者の「満足度」を指標に使う。急性期の病院では救命率とか治療率が指標になりますが、残念ながら透析は勝負が長いため、医療の質の判定は非常に難しいので、患者の満足度を目標にしてはどうかと思っています。
- 平田
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究極的には満足度でしょうか、満足に至るステップはきちんと押さえなければならないと思います。例えば医療技術の面です。医療消費者には「質が悪くても、安ければ満足」という人もいます。しかし、そういう回答はその施設が本当に求めていたものでしょうか。満足というのは非常にあいまいなもので、それだけで判断するのは危険です。自分が重視した部分の満足度と、トータルの満足度が一致しない場合もあるからです。
- 櫻堂
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よくわかります。医療機関で患者の満足度をとると、必ずしもクオリティが高い病院の満足度が高いわけでなく、相対評価は意味がないことを経験しています。ただ、透析の場合は毎年同じ患者さんを診ているので、その人たちの評価で、どこが上がり、どこが下がったのかという経時変化に意味があります。そしてトータルの満足度が変化した原因について、職員にディスカッションさせることでサービスマインドが生まれてきます。提供する側のスキル、評価はいかがですか。
- 平田
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これは、どういうサービスや商品を提供しているかによります。病院は血圧測定や注射などのように技術的なものもあれば、病院で過ごす時間をどれだけリラックスして、心地良い雰囲気で過ごせたかとか、苦痛はどうかなど、いろいろな側面の満足度を見ていかないと、次にどこを改善していったらいいかがわかりません。次のアクションにつながる評価項目にしなければいけないと思います。病院は、その場所である程度長い時間を過ごして、スキルとサービスを受けるという意味で、美容院と似ていると思いませんか。病院は今まで、どちらかというと技術中心だったのでしょうが、今やサービス業ですから。
- 櫻堂
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私はアメリカの透析室を見たとき、美容院かエステティックサロンかと思いました。おっしゃるとおり、環境と手技が両方良くないと居心地はよくなりません。もちろんアメニティもそうですね。嶋口先生が「サービス業は本質サービスと表層サービスの2つから構成されている。これまでは技術論だけでやってきたが、表層サービスも同時に重要だ」と主張されているように、その2つをバランスよく成長させていくことですね。
- 平田
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特に患者は気持ちが沈んでいたり、おっくうだとか、体調が良くないことが多いので、表層サービスには健康な方よりはるかに敏感だと思います。透析ではありませんが、最近では産婦人科がすごく変わってきて、もう病院ではなくなってきています。看護師さんがカラフルでかわいい制服を着ていたり、非常にアットホームで、病院というよりサロンのようなところが増えてきています。
専門外のサービスや技術を見極める「目利き」が必要
- 櫻堂
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医療の世界は、最初は技術から入り、やがてアメニティへの投資が始まり、最近になってようやく「中身も重要だ」と気がついて、職員教育を一生懸命やり始めるプロセスをたどっているようです。
- 平田
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面白いことに、医療だけでなく企業もそうです。私は自動車業界に長くいましたが、はじめ自動車は「人が乗って動けばいい」だけのマシンでした。その次にデザインですが、それでもまだハコ物でした。ところが先日、新車の展示かに行ったら、サロンオーケストラが演奏会をやっていたのです。車とは離れた部分で付加価値を競っているのです。
- 櫻堂
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医療の世界でも、行き詰った自治体病院を医療法人に運営を任せるやり方が始まっています。また、「フォーカス・ファクトリー」という新しい経営コンセプトの病院もできています。心臓移植専門の20床程度の病院や白内障だけなら日本一という10床の診療所などで、特定の領域の技術だけを専門特化し始めているのです。
- 平田
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変わらない組織があり、学習する組織へという大きな流れもあります。学習する組織は、環境や社会からいろいろなことを吸収してマネジメントにフィードバックし、それをまたサービスに出す組織です。もう1つは組織のモジュール化という動きです。今までの日本企業の特徴は、すべてを社内に抱え込む内製化でしたが、これからは自社の得意分野を他社の得意分野と組み合わせるスタイルです。いろいろな分野でいろいろな人を組み合わせてチームを作るわけです。そのとき重要なのは、どのモジュールとどのモジュールを組み合わせるかという、橋渡しをする力です。そして、モジュール同士をどうマネージして意思決定していくかというように、リーダーシップの中身も変わってきます。自分の守備範囲だけでなく、専門外のサービスや技術などのクオリティを見極める「目利き」でなければなりません。