施設の改善・改革・成長と
医療の質向上に大きな手掛かり
1.見えてきた課題
保存期の透析治療に関する知識・情報獲得がその後に影響。患者会は「存在感」をどう築くか!?
現在の透析治療の満足度に影響を及ぼす要素を探ると、「透析導入前の保存期における透析についての知識・情報量」が多いほど満足度が高いことが浮き彫りになった。この傾向は年齢や仕事の有無、透析治療を開始してからの経年数の違いなどには影響されなかった。これは、逆の見方をすれば、得た知識や情報は時期的に、また内容的に十分でない場合があり、そのことが、その後の長い、また掛け替えのない患者の人生を支える透析治療生活を不安なく迎えることを困難にする大きな要因になっているということでもある。
もう一つ指摘しなければならないのは、情報源としての患者会、全腎協の「存在感」の薄さについてである。「図25」からは、22.3%の患者が患者会の「今後」に期待していることがうかがえるだけに、患者会のまとめ役としての全腎協が従来の活動への反省に立って、これから情報機能や相談機能を強化、充実していくことが強く求められている。腎移植によって透析から離脱した2人が会員として残っていることは、そうした期待や思いの大きさを表しているのではないだろうか。
こうした点を踏まえながら、調査結果をさらに考察した。一部、「I調査結果」と重複する部分があることを了解いただきたい。
(1)情報の入手経路
セカンドオピニオンも含めて情報環境の整備を
透析施設(医療)に関する情報は、透析を導入した病院の医師からが53.1%と飛びぬけて多い。過去の経験を聞く現在とタイムラグのある質問であるため、当然のことながらインターネットからは3.0%にとどまった。患者の年齢構成をみるとインターネットに慣れている年齢層とはいえないが、総務省の平成21年通信利用動向調査(図29)を見ると、50歳代以上のインターネット利用率が前年よりも伸びており、今後インターネット(IT)が情報源としてさらに増えることは間違いない。しかし、インターネットでの情報収集は内容の信憑性が疑われる情報も含まれている可能性もあることから、今後とも最終的には医師や看護師による説明が必要・不可欠で重要なことは明らかだ。
いずれにしても患者は、保存期に透析に関する十分な情報を獲得しておらず、これは「透析導入が突然で情報がなかった」との切実な記述欄の声に表れている。保存期に情報を得ることの重要性は、「透析導入前を振り返って《こうしておけばよかった》《こういう情報が欲しかった》などがありますか?」の記述欄の中に透析に関する記述が全体の40%あり、そのうち「透析についての情報・透析方法やその内容について知りたかった」との記載が全体の72.5%を占めていることからもわかる。
保存期での情報が多いほど、また情報の内容・質が高いほど、その後の透析生活をスムーズに不安なく迎えることができる。医師やスタッフに具体的に質問したり、説明を受けることができれば、より自分に合った施設を選択することが可能になるからだ。
その情報の入手方法のひとつとして「セカンドオピニオン」があるが、セカンドオピニオンを知っているか否かと満足度との間に明確な相関は見られなかった。また、「実際にセカンドオピニオンを受けた」グループとの関連では「施設環境」についての満足度がわずかに高かった。実際にセカンドオピニオンに相談した内容は、「ほかの治療法について」が一番多かった。
ここからは、どうしても透析治療が必要なのか、ほかに治療法はないのかといった患者の揺れる心が見え隠れする。
しかし、若年層では「医師やスタッフに不満がある」が「より良い治療法を知りたい」を上回った。具体的に「導入前も先生の言うとおりにしてきたのに透析をすることになってしまった」などの記述とともに、他疾患のことも挙げられている。
こうしたことから、セカンドオピニオンに対する認識の違いとともに、透析に対してだけではない不安や心配もあったことがうかがわれた。
セカンドオピニオンを受ける動機は明確には見えないが、少なくともセカンドオピニオンを受けたことによって、透析に関する具体的なことが理解でき、施設を見る視点もより具体的になり、それをもとに施設を選択することで満足度が上がっているのではないかと推測される。
その一方で、セカンドオピニオンを受けても通院回数や検査の内容、医師に対して満足していないことを見ると、セカンドオピニオンを受けた後に、これらの項目について患者自身が満足度を上げる行動(具体的に質問をする、施設を変える、医師を変えるなど)を起こせていない可能性と、たとえ行動を起こしたとしても様々な要因から満足度を上げられなかった可能性も否定できない。例えば、通院回数は標準的治療に基づくもので患者の希望によって自由に変化させることはできない、といったことである。
このように、セカンドオピニオンを受けた経験と各項目の満足度にばらつきがある要因として考えられるのは、①セカンドオピニオンが正しく認知されていない、②セカンドオピニオンと、いわゆるドクターショッピングが混同されていることが推測される。セカンドオピニオンを正しく認識するための広報活動などのシステムづくりや環境整備が必要であろう。
医療者はいかに的確な情報を提供するか
また、現在の満足度が高いことと保存期の主治医が専門医かどうかの関連性は本調査では明確にならなかった。
「主治医が専門医だと知っていた」グループと「主治医が専門医かどうか知らなかった」「そもそも専門医を知らない」グループとの間に満足度の高さで大きな違いがなかったからだ。
つまり、保存期の主治医が専門医でなくても原疾患の先に透析があることを認識し、的確な情報提供ができれば問題はなく、それによって患者は自分に合った透析生活の選択が可能となるはずだ。保存期に関わる医師が専門医か否かを超えて、治療面だけではなく、いかに的確な情報を患者に提供できるか、情報面でも医療者が大きな役割を担っていることがわかる。
全銀協は昨年5月29日、名古屋市国際会議場で設立40周年記念・法人設立15周年記念全国大会を開催。「がんばろう東日本!仲間を信じて、明日を信じて」をテーマに全国の患者が被災者に支援のエールを送った。新たな広がりをもった大会となった。
(2)導入時の施設選択のためのサポート
透析生活をより具体的にイメージし意思決定できるように
外来透析施設を決める時点では「希望通り」に、また「ほぼ希望通り」に決められたと答えた人の割合は約92%と高いが、現在の満足度との関連は見られなかった。
これは、患者は主に医師の情報提供や推奨によって施設を選択するものの、果たしてその施設が自分にとって適切かどうか、比較対照するための情報を患者は持ち合わせていないためではないか。また、透析治療が進むにつれニーズが変化してくるし、外来透析施設を決める時点では自分の希望する条件が何であるのかを明確に知ったうえで施設を決定しているとは必ずしも言えない、といった患者側の事情や課題も存在するだろう。
この時点では透析治療の質を厳選する時間や精神的ゆとりはなく、医師の勧めるまま透析治療に入り、それで「よし」とした可能性もあるだろう。つまり、透析治療とは何かをよく理解できていなかったり、各種透析法は知っていても自分のライフスタイルや病状にどの透析方法が適切であるかも十分わからないまま導入に至った可能性があるといったことである。
しかし、導入時に情報・知識のあるグループのほうが施設選択や透析生活に必要な条件をより具体的にイメージできるわけで、それを前提に施設を探せば、その条件やニーズに応えられる「人」に出会う機会も増え、その結果自分のニーズに合う施設を選択することができ、その後の透析生活の満足度が高くなるということではないだろうか。
(3)満足度の違い
仕事の有無や経年数で変化するニーズにどう応えていくか
有職者のグループでは、「透析時間・通院回数・検査の回数」に対する満足度が低く、「透析時間が短い、あるいは長い」「透析回数を少なくしてほしい」「毎日通院でもいいから毎回の透析時間を短くしてほしい」といった自由記述も目立つことから、透析治療と仕事との両立を大変だと思っている人が有職者には多いことがわかる。
また、経年数で満足度に違いが出る理由として考えられるのは、経年数が浅い(5年未満)グループでは透析治療による生活パターンの変化や透析治療そのものへの関心が主であるのに対して、経年数が長くなると生活パターンも安定し、治療をするというよりも通院自体が生活の一部となっているため、施設に求めるものが変化しているといったことなどによるのではないか。それは治療中の快適空間であり、スタッフや患者同士の家族的な交流である。この傾向は、「新たに施設を選ぶとしたら何を重視するか」の質問への回答に、「医療の質」「施設の雰囲気」が多いことからも分かる。経年数の長さによる「慣れ」もあるだろう 。
また、「送迎の有形」については世評でいわれているより重要視している割合が少ないことは興味深い。このほか有職者グループで、仕事と両立するために「透析時間帯を選べる」というニーズが高いかと思われたが実際には高くなかったのは、既に時間調整がされているため、問題として認識しなかったと考えられる。
さらに患者満足度調査をしている施設では、施設は清潔でスタッフは親切であり、ほかの施設へ移ろうと思った人が少ないことがわかった。これは患者満足度調査を行っている施設は、患者のニーズに即したサービス提供をしようとする姿勢やシステムを持っており、調査結果をもとにスタッフの態度も含めた施設環境の改善を図るからだと推測される。
「3.11」東日本大震災は、透析患者にも、医療人にも、医療のあり方にも多くの課題を投げかけた。写真は昨年5月、福島県いわき市小名浜で。
「医療サービスの質が高く、的確な情報を提供する施設」へ
このように現在の満足度に影響を与えるのは、①医師・スタッフの姿勢(コミュニケーションなど)、②透析導入前における患者への透析に関する情報の提供、③患者ニーズに基づく施設マネジメント、であり、これらを改善することによって患者の治療環境が向上する。
つまり、保存期から維持期の全体を通して患者が求めているものは、「医療サービスの質が高く、的確な情報を提供してくれる施設」ということになるのではないか。さらに患者のニーズは多様であるだけに、それが何なのかを具体的に把握したうえで患者が施設を自由に選択できるよう環境づくりに取り組む必要があるだろう。
医療者の認識と患者ニーズや現状とのずれ
患者の生活全体を見渡せる医療人に期待が
導入期・維持期において「施設を移りたいと思っている」グループに共通するのは、「人」に関する不満であることがわかった。「医師」に不満があることが上位にきていることと併せて考えると、患者の望む治療法を医師は十分に把握しているのか、治療上の必要性から患者の望む治療法を選択できない場合は、その理由をきちんと説明できているのかが問われているようだ。薬の使い方や検査内容などは、医師の裁量によるものであり、医師が患者の納得する治療と説明(情報)を提供していれば治療の満足度の低い薬の使い方や検査の内容については不満が解消されていくと思われる。
また、若年層の施設選択には、施設環境や医療の内容はもちろんのことながら、仕事との兼ね合いで施設を選択する可能性と、QOLに関する理由(ニーズ)が大きいだけに、若年層と高齢者、仕事の有無などによってニーズが違うことをしっかりと捉えておくことが必要だろう。
さらに、透析治療の経年数が長いほど、医療者に対して知識の豊富さよりも親しみやすさ、施設環境でのプライバシーの確保など、治療そのものの質の確保は論ずるまでもないが、長時間拘束される透析治療時間を快適に過ごしたいというニーズがより強くなってきているように推測される。透析患者は、定期的に同じ施設へ通院するため、スタッフとの信頼関係が築けない場合は患者の苦痛は大きい。
例えば、「困りごと」があっても誰にも相談しなかった人が15%近くいたのは、スタッフには相談できなかったのか、相談したくなかったのか、それはなぜかを知ることができれば、今後の患者アプローチに生かす手掛かりになるのではないか。
注意すべきは、定期的に長時間、同じ患者と接することが特徴の透析治療現場では、医師をはじめとするスタッフはともすれば型にはまったルーティンワークに終始することとなり、年齢や性別、時間の経過に伴う患者ニーズの変化や、問題意識が希薄になりやすい環境にあるということではないか。
それによって現状認識にずれや遅れが生じるおそれがあり、情報から孤立しがちな患者や訴えの乏しい患者の心情を見落としがちになるだけに、こういう人たちをどうフォローするのか、看護師をはじめとするスタッフが身体状態だけではない患者の生活全体を見渡すことを今後考えていかなければならないだろう。
全腎協は昨年秋「私たち全腎協の新たな目的」をまとめ、ぞの実践に向けて全国で議論を進めでいる (宮本会長のコメントの項参照)。「患者が主体的に医療に参画し、医療者との信頼関係を増進して いくことによって医療の質の向上をめざす」など患者の自立と医康人との協働の重要さを訴えて おり、今回の患者調査もそれに沿ったものといえる。