医療経営戦略研究所
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特集 全腎協「透析患者の行動選択に関する実態調査結果」報告
施設の改善・改革・成長と
医療の質向上に大きな手掛かり

3.現在(透析維持期)

高齢化に伴い、通院の「足の問題」が今後の課題に

現在、実際に行っている最も多い治療法では血液透析(HD)が圧倒的に多く86.5%を占め、次いでHDF(血液透析濾過)の10.2%だった(図17)。

また、現在困っている問題は多岐にわたっており(複数回答)、「通院回数」(34.6%)や「通院に伴う体力的なこと」(24.9%)よりも「その他」(35.9%)が多い。具体的には「透析時間が長い・あるいは短い・時間帯」「透析のために日常生活の時間が足りない」など時間にかかわる問題や、透析中の身体的苦痛(血圧が下がる、足がつるなど)、合併症に関する問題などのほか、在宅透析では自宅の電気代・水道代が高いといった経済的な問題、さらに透析治療に関して施設側が要望を聞いてくれないことを挙げる人も。

記述欄に特に加齢や体力低下による移動の困難を心配する声が多くあることを踏まえると、通院の「足の問題」は患者の高齢化の進展とともに今後の大きな課題となりそうだ(図18)。

現在の自分の検査値や内服薬、血圧などの全身状態、ダイアライザーの種類などについての質問に対しては、「よく知っている」と「少しは知っている」の合計は最も低いダイアライザーの種類でも66.9%で、他の項目は82%~98.6%の高さだった。これは、透析手帳やお薬手帳、施設側で渡すデータなどによって把握しているものと思われる。

導入前に透析法を知っているほうが現在の満足度が高い

「現在の透析治療への満足度」を聞いてみると、「かなり満足」「どちらかといえば満足」の合計が60%を超えたのは、「治療費免除や各種助成制度」(67.4%)、「医師以外のスタッフ」(61.7%)、「施設環境」(60.2%)の3つ。次いで50%台は「透析機器などの設備環境」(59.6%)、「医師」(58.2%)、「検査の回数」(50.4%)で、以下「検査の内容」(46.6%)、「通院回数」(43.4%)、「透析時間」(41.7%)、「薬の量」(38.7%)、「薬の使い方」(37.9%)だった。「普通」を除く「あまり満足していない」「全く満足していない」の合計が多かったのは「透析時間」の22.2%、「薬の量」15.5%、「医師」13.6%の順だった(図19)。

これらを年齢層でチェックしたが、世代間で大きな差は見られなかった。しかし、仕事の有無との関係をみると、仕事を持っているグループにおいて「透析時間」「通院回数」「検査の回数」について満足している割合が少ない傾向のあることがわかった。

また、セカンドオピニオンを知っているか否かと現在の満足度との間には相関関係は見られなかったが、「実際にセカンドオピニオンを受けたことがあるグループ」では、透析時間、検査の回数、薬の使い方、医師以外のスタッフ、治療費免除や各種助成制度の項目で満足度が高かった。

一方、通院回数、検査の内容、医師についてはセカンドオピニオンを受けたグループでも満足していない割合が多い傾向がみられた。

さらに、導入前に各種透析方法を知っているほうが知らなかった人より現在の満足度が高い傾向が強いことがわかった。特に医師、医師以外のスタッフ、治療費免除や助成制度で高かった。つまり、保存期の患者に対する情報の提供を含めた医療連携の重要性が改めて確認された(図20)。

このほか、「主治医が専門医であることを知っていた」グループが、全項目で概ね満足度が高かったが、その差はごくわずかだった。

「透析開始1年以内に治療法を変更したグループ」と「変更しないグループ」との間に現在の満足度について大きな差はなかったが、変更したグループが満足していない人の割合が多い項目があった。例えば、医師に対して満足していない割合が多いことは、医師の患者への考慮や努力の一方で患者は、医師の勧める治療法に必ずしも納得できていないといったことが背景にあるためではないだろうか。

透析時間に関しては、CAPDからHDへ変更した人で満足していない割合が最も多かった。これは腹膜炎でHDに変更したなど治療上の必要に迫られた結果だが、透析時間に不満が残る結果となった可能性がうかがえる。

「透析開始1年以内に治療法を変えたいと思ったことがある」グループの各項目の満足度についてみると、全項目においてこのグループのほうが「思わなかった」グループより満足度が低かった。特に通院回数・透析時間について負担になっていることがうかがえた。

患者の満足度が高い「患者満足度調査」を実施している施設

各項目の満足度と関係して「患者満足度調査をしている施設かどうか」を聞いたが、患者全体の30.3%が実施している施設の患者だった。これは全217施設中の84施設で、実施率は38.7%だった(図21-1、図21‐2)。

満足度と「患者満足度調査をしている施設かどうか」とのクロス集計を行った結果は、患者満足度調査をしている施設では、すべての項目において「していない施設」よりも満足度が高かった。中でも患者満足度調査をしていないグループとの差が大きいのは、①医師、②医師以外のスタッフ③設備環境への満足度だった(図22)。

また患者満足度調査をしている施設のほうが、していない施設よりも清潔であり(清潔である31.3%、清潔でない10%)、スタッフも親切であると答えている(スタッフは親切31.1%、親切ではない10.5%)。さらに、患者満足度調査をしているほうが、していない施設よりも、他の施設へ移ろうと思った患者が少なかった(他の施設へ移ろうと思った19%、思わない33.5%)。

「現在の透析治療の満足度」と「透析治療を開始してからの年数(経年数)」の関係を見てみると、経年数の違いで満足度に違いがある項目がわかった。

特徴的だったのは、すべての経年数と項目の中で唯一、経年数5年未満の「透析時間」で「満足していない」が「満足している」を上回っていたこと。

このほか、全体を通して満足度の低い傾向の項目(通院回数・透析時間・検査回数・検査内容・薬の量・薬の使い方)と、反対に満足度の高い傾向の項目(施設の環境・機器などの設備環境・医師・スタッフ・各種助成制度)に分かれていた。これは患者にとって分かりやすさに差がある(分かりにくいためと思われる。経年数5年未満でこの傾向が大きく、また経年数が進むとともに低い項目の満足度がアップしていることが分かった。さらに経年数11~15年で、全項目にわたって「満足していない」が他の経年層よりも高くなるという傾向も見られた。

先の医療における「分かりにくさ」については今後とも、情報提供面などでの手当てや工夫が求められるだろう。

不満の大半が「人」をめぐる問題

次いで、「現在の施設から他の施設に移ろうと思ったことはあるか」を尋ねると「はい」が22.4%だった。その理由(複数回答)としては導入期と同様、「医師への不満」(30.5%)、「看護師に不満」28.6%)、「臨床工学技士に不満」(11.4%)など「人」への不満が圧倒的に多かった。他に「時間や曜日の変更ができない」「透析機器やベッドなど設備が古い」「検査結果や体の状態を説明してくれない」などが比較的多かった(図23、図24)。


現在困っていること。気がかりなこと。
  • 贅沢といわれるかもしれないが、透析時間が長く、やはりつらい。透析時間を短くする研究はされているのだろうか。今後、この分野の進歩はどうなっていくのだろうか。
  • 透析医療の質の改善を強く望む。薬や検査の多さなど「介入過剰」状態では、働きたくても働けなくなる。
  • メンタル面のダメージがつらい。
  • 看護師の技術の差が大きく、穿刺に失敗されるケースが多い。
  • 老老生活で、夫も体が悪いので頼めない。不安だ。

「他の施設へ移りたいと思ったことがあるか」を年齢別に見てみると、「思った」と「思わない」グループの差は若いほど接近していた。70歳を境に「移ろうと思った」は急激に減っている。 「移ろうと思った理由」では人への不満だけでなく、夜間や日曜日も実施してほしい、通勤上の理由で、施設が遠い、などがあった。

さらに、「移ろうと思ったか」と「通院時間(片道)」との関係では、片道46~60分と76~90分の長時間通院グループにおいて、「移ろうと思った」の割合がいずれも「思わない」の2倍以上あった。また、自動車と透析施設の送迎による通院グループは、「施設へ移ろうと思わない」が多かった。一方、電車・地下鉄・バスでは、「透析施設へ移ろうと思った」が比較的多かった。